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第45回 生理研国際シンポジウム 参加登録、ポスター演題募集を開始しました。

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第45回 生理研国際シンポジウム
「Cutting-edge approaches towards the functioning mechanisms of membrane proteins」
(11/28まで)

詳しくはこちらをご覧ください。
 


国際研究集会 "A quarter century after the direct and indirect pathways model of the basal ganglia and beyond."を9月8日に開催します。

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国際研究集会 "A quarter century after the direct and indirect pathways model of the basal ganglia and beyond." を9月8日に開催します。

詳しくはこちらをご覧ください。
 

生まれつき目が見えなくても、 相手の手の動作を認識するための脳のネットワークは形成される

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内容

日常において私たちは目を使って、相手が行う動作を素早く理解したり学んだりしています。これは、脳の中に他者の動作を認識するためのネットワークが存在するからです。生まれつき目が見えない場合でも、世界的に活躍しているアーティストやアスリートが示すように、相手の動作を理解したり学んだりすることは可能です。では目が見えない場合には、このネットワークはどのように振る舞うのでしょうか?今回、生理学研究所の北田亮助教らの研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、他者の手に触れてその動作を識別している時の脳の活動を測定しました。その結果、このネットワークの一部は、生まれつき目が見えない人でも、目が見える人と同じように、活動をすることが分かりました。本研究成果は、「なぜ目が見えなくても、相手の手の動作を知ることができたり、学んだりできるのか」という謎を明らかにする一助になります。
 


<研究の背景>

 私たちは目を使うことで、他者が行う動作を理解したり、学んだりします。その一方、パラリンピックで活躍するアスリートや世界的なアーティストが実証するように、生まれつき目が見えないとしても、視覚以外の感覚を活用することで動作の理解や学習は可能です。では生まれつき目の見えない人(先天盲)の脳は、目の見える人(晴眼者)に比べてどのように働いているのでしょうか?
脳の中には、相手の動作を認識するために働くネットワークが存在します(Action Observation Network, AON)。目で見た情報を専ら処理する脳部位を視覚野と呼びますが、AONには視覚野の一部(Extrastriate Body Area, EBA)が含まれます。では目が見えない場合にAONはどのような機能を果たしているのでしょうか?本研究では機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、手の動作を認識した時の脳の働きを晴眼者と視覚障害者で比較しました。

<研究の内容>
 視覚障害者群28名(18名の先天盲と10名の中途失明者)と、年齢や性別が一致した晴眼者群28名が、本研究に参加しました。4種類の手の動作をかたどった模型・4種類の急須の模型・4種類の車の模型を制作しました (図1)。どちらの群の参加者も目を閉じた状態で模型を触り、手に触れた場合はその動作を4択で当て、急須や車に触れた場合はそれぞれの種類を4択で当てました(触覚識別課題)。さらに触覚課題の後に、晴眼者群は同じ模型を見て当てる課題(視覚識別課題)を行いました。
急須や車の認識時に比べて手の動作の識別時に強く活動する脳部位を、Action Observation Network (AON)として特定しました。その結果、晴眼者群では触覚課題でも視覚課題でも、EBA・縁上回の活動が観察されました(図2)。さらにこれらの領域の一部は、視覚障害者のうち先天盲群でも確認することができました(図3)。この結果は、AONが感覚に関係なく駆動するだけでなく、視覚を使った経験の有無にかかわらず発達することを示しています。

本研究は、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環として実施し、また、文部科学省科学研究費補助金の助成によって行いました。

脳プロロゴ.jpg科研費ロゴ.jpg

 

 

 

 

<用語>
・機能的磁気共鳴法(fMRI)
ある脳部位の神経細胞の活動に伴い、近傍の血管において酸素を持つヘモグロビン(赤血球のタンパク質)と酸素を持たないヘモグロビンの相対量が変化します。fMRIは核磁気共鳴現象を用いてこの変化を信号 (BOLD信号)値として測定する手法です。

・Action Observation Network (AON)
  AONとは他者の動作の認識に関わる脳内ネットワークのことを指し、手や足の動作に限らず顔の表情を認識した時にも活動します。有名なミラーシステム(他者の動作を認識する時だけでなく、自分が同じ動作を行った時にも強く反応する脳部位)はこのAONの中に含まれます。

・Extrastriate Body Area(EBA)
目で見た情報を専ら処理する脳部位を視覚野と呼びます。EBAとは視覚野に含まれる領域の一つで、他の物体に比べて身体を観察した時に強く反応します。近年の研究からEBAは自分が動作を行うときにも活動することが分かっており、この領域がヒトのミラーシステムの一部に該当するかどうかについて活発な研究が行われています。

今回の発見

1.    手の動作の認識に関わる脳内ネットワークの一部は、生まれつき目が見えなくても発達することを明らかにしました。
2.    この成果は「なぜ生まれつき目が見えなくても他者の手の動作を理解したり、学習したりすることができるのか」を説明する手がかりになります。

図1 実験に用いた模型

kitadaPress20140820-1.jpg 実験参加者はMRIスキャナー内で模型に触れて、手を触った場合はその動作を、急須や車を触った場合はその種類を識別しました(触覚課題)。さらに晴眼者は目のみを使う識別も行いました(視覚課題)。急須や車に比べて手の識別で強く活動する脳部位を、Action Observation Network (AON)として特定しました。

図2 晴眼者が手の動作を認識しているときに強く活動した部位

kitadaPress20140820-2.jpg 藍色の領域は、晴眼者が急須や車に比べて手の動作を識別した時に強く活動した脳部位を示しています。この脳部位は触って識別する課題(触覚課題)でも見て識別する課題(視覚課題)でも、手の動作に対して強く活動しました。水色の部分は、視覚から得られる身体の情報を専ら処理する脳部位(EBA)を示しています。活動をわかりやすく図示するために大脳皮質を膨らませて示しています。濃い灰色は脳溝を示し、薄い灰色は脳回を示しています。

図3 先天盲でも晴眼者でも手の動作を認識しているときに強く活動した脳部位

kitadaPress20140820-3.jpg 黄色の領域は、先天盲と晴眼者で手の動作の認識時に共通して活動した脳部位を示しています。視覚経験に関係なく縁上回とEBAの一部が活動していることが分かります。水色の部分は図2と同じように、視覚から得られる身体の情報を専ら処理する脳部位(EBA)を示しています。濃い灰色は脳溝を示し、薄い灰色は脳回を示しています。

この研究の社会的意義

視覚障害者の教育基盤を形成するための一助になる可能性
 生まれて幼いころに失明しても、多くの方が社会の多方面の分野で活躍しています。これまでの発達心理学では目が見えることを前提とした理論が提唱されてきましたが、目が見えない場合、「どのように他者のことを理解し、学ぶ能力が発達するのか」に関してはよく分かっていません。本研究の成果は「なぜ目が見えなくても他者の手の動作を認識・学習することが可能なのか」を説明し、目が見えない場合の社会能力の発達を考える上で重要な知見となります。

論文情報

'The brain network underlying the recognition of hand gestures in the blind: the supramodal role of the extrastriate body area'
Ryo Kitada, Kazufumi Yoshihara, Akihiro Sasaki, Maho Hashiguchi, Takanori Kochiyama, Norihiro Sadato
The Journal of Neuroscience, 23 July 2014, 34(30): 10096-10108

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学研究部門
助教 北田 亮 (きただ りょう)
Tel: 0564-55-7844   FAX: 0564-55-7786
email: kitada@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721 
email: pub-adm@nips.ac.jp
 

生理研が豪州New South Wales大学(UNSW)医学部との学術協定に調印しました

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 8月14日に井本所長と鍋倉副所長が、生理研とUNSW医学部間の学術協定調印のため豪州を訪問し、協定書に双方が署名しました。UNSWはシドニーにある学生数約5万人の国立大学で、オーストラリアTop 5の一つです。UNSWの生理学・神経科学の規模はそれほど大きくありませんが、オーストラリアの伝統として電気生理をはじめとする計測技術を得意とし、特に人工内耳の基礎研究が盛んに行われています。
 生理研とUNSWの研究交流が、両研究所にとってこれまでにない新しい研究アプローチをもたらし、素晴らしい発見への礎となることが期待されます。

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脳が光沢を評価する指標を解明

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内容

これまで光沢を評価する脳の仕組みは明らかではありませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の小松英彦教授および西尾亜希子研究員らは、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の下川丈明研究員と共同で、画像のどのような情報を元に脳が光沢を評価しているかを明らかにしました。本研究は、Journal of Neuroscience誌(2014年8月13日号)に掲載されました。

私たちの研究グループは、光沢が2つの指標(ハイライトのコントラストと鋭さ)によって知覚されているという心理実験の結果に注目。これらの指標を変化させた画像を作成し、その画像を見ているサルの下側頭皮質の神経細胞の活動を詳細に調べたところ、脳の神経細胞がハイライトのコントラストや、鋭さ、および物体の明るさを指標としていることがわかりました。また記録した神経細胞の活動を用いることで、それらの指標を再現できることも明らかにしました。

 小松英彦教授は「今回の研究で、これまで明らかにされていなかった『光沢を評価するために脳が利用している指標』を明らかにしました。この結果は、ヒトと同じように光沢を認識できる機械を作ることにつながる成果だと期待できます。光沢は物の質感に影響する重要な性質なので、さまざまなモノづくり産業に役に立つ可能性があります。」と話しています。

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本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

 

今回の発見

1.脳が光沢を評価するために使っている指標を解明
2.指標は、ハイライトのコントラスト,鋭さ,物体の明るさという3種類の情報から成る
3.それぞれの情報量は脳細胞の活動からほぼ再現する事が出来る。

 
【用語説明】
下側頭皮質:大脳の腹側に位置する高次視覚野。色や形、顔など物体認識に重要な役割を果たす領野として知られている。
ハイライト:光沢の強い物体表面において、光の反射で明るくなっている箇所
コントラスト:画像の最も明るい部分と暗い部分の差。

図1 記録部位の図

20140908press-komatsu1.jpgニホンザルの高次視覚野である下側頭皮質の個々の神経細胞の働きを、極細電極を用いて調べました。

図2 光沢知覚に関わる画像の指標

20140908press-komatsu2.jpg光沢を知覚する際には、ハイライトのコントラスト(c)、ハイライトの鋭さ ( d )、物体の明るさ( pd ) といった指標を使っていると考えられています。

図3   提示した画像の例(灰色だけ)

20140908press-komatsu3.jpg実際に、脳内でどのように光沢の情報が処理されているかを調べるため、ハイライトのコントラスト(c)と鋭さ(d)をそれぞれ4段階変化させ、明るさ( pd ) も3段階変化させた刺激を作成して、それぞれの刺激に対する神経細胞の応答を調べました。

図4 神経細胞の応答例

20140908press-komatsu4.jpgハイライトの鋭さに応答した細胞(左)とハイライトのコントラストに反応した細胞(右)の例を示します。円の配置は、図3に対応しており、円の大きさはそれぞれの画像刺激に対するそれぞれの神経細胞の応答の強さを示しています。

図5 光沢の知覚的指標を神経活動から再現する

20140908press-komatsu5.jpg記録した神経細胞の集団の応答をもとに、光沢知覚に関わる画像の指標が正確に再現できました。このことから、今回記録した下側頭皮質の神経細胞は光沢知覚と密接に関わる3種類の指標(コントラスト、鋭さ、明るさ )に関する情報を表現していると考えられます。

この研究の社会的意義

脳が、ハイライトのコントラスト,鋭さ,物体の明るさといった、比較的簡単な画像の指標を用いて光沢を効率よく評価していることが、私たちの研究によって実証されました。このような計算を人工的な画像認識システムに応用することで、ヒトと同じように光沢を認識することができる機械を開発することができるようになると考えられます。
 また本研究は、『脳が様々な質感を認知するメカニズム』の全容を解明するための重要な足がかりとなると、私たちは考えています。

論文情報

Perceptual gloss parameters are encoded by population responses in the monkey inferior temporal cortex.. 
Akiko Nishio, Takeaki Shimokawa, Naokazu Goda & Hidehiko Komatsu.
Journal of Neuroscience.   2014年 8月13日

お問い合わせ先


<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚認知情報研究部門
教授 小松英彦 (コマツヒデヒコ)
Tel: 0564-55-7861   FAX: 0564-55-7865 
email: komatsu@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721 
email: pub-adm@nips.ac.jp
 

所長記者会見

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話題1 生理学研究所一般公開(10/4 開催)最終のご案内
“脳とからだのしくみ サイエンス・アドベンチャー”
特別企画、募集企画等についてのご説明

自然科学研究機構(岡崎)では、2014年10月4日(土曜日)に一般公開を開催いたします。今年は、生理学研究所の研究テーマである人体と脳の不思議をより身近に感じていただくために、「生理学研究所 一般公開 ―脳とからだのしくみ サイエンスアドベンチャー!―」をテーマに、生理学研究所のすべての研究室と研究内容を体験できる展示を中心に、様々な企画を考え、準備を進めております。
今回は、特別企画として、所内外の講師による、特別講演を予定いたしております。
所外からは、昨今、致死率の高い感染症が人間社会を脅かされる中、その一つでもある鳥インフルエンザについて、「鳥インフルエンザのパンデミックの可能性」と題し、東京大学医科学研究所 渡辺登喜子准教授に、続いて、南米チリに設置され、現在本格的な科学運用が開始されたアルマ望遠鏡の、国際アルマ望遠鏡計画に従事した、自然科学研究機構 国立天文台 井口聖教授には、「アルマ望遠鏡、ついに始動!―天文台の新時代の扉が開かれる―」と題して、それぞれご講演いただきます。
講演は、入場無料・予約不要ですので、この機会に、多くの市民の皆さまにいらしていただきたいと思っております。
また、楽しみながら「せいりけん」を知っていただけるように、「せいりけんスタンプラリー」をご用意しています。多くの研究室を巡って、5つのスタンプを見つけ、せいりけんグッズを手に入れてください。

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  日時:2014年10月4日 土曜日9:30-17:00                        (受付終了 16:00)

場所:第1会場:生理学研究所明大寺キャンパス
  (名鉄東岡 崎駅南口より徒歩10分)
第2会場:岡崎コンファレンスセンター
(名鉄東岡崎駅南口より名鉄バス
竜美丘循環岡崎高校前下車徒歩2分)

※国立大学フェスタ2014の一環として行われます。

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一般公開の詳細については、生理研一般公開特設HPをご覧ください
http://www.nips.ac.jp/open

 

<特別企画>特別企画(どなたでも参加いただけます。 予約不要です)

特別講演① 10:00~10:45 岡崎コンファレンスセンター

箕越 靖彦 先生(自然科学研究機構 生理学研究所 生殖・内分泌系発達機構研究部門 教授)
「体の恒常性を司る脳 — 肥満とやせの不思議を探る」

座長  鍋倉 淳一 (生理学研究所 教授)

【内容】
近年、世界中で肥満が問題となっています。しかしながら、個人差や年齢の影響は大きいものの、少しぐらい暴飲暴食をしても多くの人があ まり太らないことも事実です。ご飯一杯分を毎日余分に食べると、私達の体は10キロ近く太るはずですが、そんなに太ることはまれです。反対に、食事が摂れ ない時には痩せすぎないよう、体を調節しています。近年の研究により、これらの調節に脳が重要であることが明らかとなってきました。また、生活習慣によっ て脳に変化が起こり、肥満することも分かってきました。本講演では、肥満とやせに関わる体の不思議についてお話します。 

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箕越 靖彦 氏

愛媛大学医学部卒、愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。同大学医学部助手、講師、助教授、ハーバード大学医学部Lecturerを経て、2003年11月より現職。
 

  

特別講演② 11:00~11:45 岡崎コンファレンスセンター

定藤 規弘 先生(自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学研究部門 教授)
「褒め を科学する」
 
座長  小松 英彦(生理学研究所 教授) 

【内容】
褒めは他者による肯定的な評価のことで、社会的承認と捉えることができ、人間が無事に生きていくための重要な条件の一つです。近年急速 な発展を遂げた人間の高次脳機能計測手法により、社会的承認(褒め)は、基本的報酬や金銭報酬と共通の神経基盤をもつことが明らかになりました。今後重要 性を増すと考えられる脳科学的知見と教育研究の関係について解説します。

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定藤 規弘 氏

京都大学医学部卒、同大学院修了、医学博士。米国NIH客員研究員、福井医科大学高エネルギー医学研究センター講師、助教授を経て1999年1月より現職。専攻は医療画像、神経科学。
 

 

特別講演③ 13:00~13:45 岡崎コンファレンスセンター

渡辺  登喜子 先生(東京大学東京大学医科学研究所 感染・免疫部門 ウイルス感染分野 特任准教授)
「鳥インフルエンザウイルスパンデミックの可能性」

座長  岡本 秀彦(生理学研究所 准教授)

【内容】
ここ数十年の間に、エイズ、エボラ出血熱、SARSといった致死率の高い感染症が人間社会に現れており、多くの犠牲者を出しています。 その一つである“鳥インフルエンザ”は、鳥類に感染する鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染して重篤な症状を起こす感染症です。一般的に、鳥インフルエ ンザウイルスはヒトに感染しにくいと言われています。しかし、近年、H5N1亜型やH7N9亜型の鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染例が増加してお り、公衆衛生上、深刻な問題となっています。今までのところ、ヒトーヒト間の伝播は見られていませんが、もしもこれらのウイルスがヒトに適応し、ヒトへの 感染やヒトーヒト間での伝播が効率よく起こるようになれば、鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックが引き起こされ、世界はパニックに陥ると考えられ ます。
本講演では、最近得られた研究結果を元に、鳥インフルエンザウイルスのパンデミックの可能性について論じます。  

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渡辺 登喜子 氏

北 海道大学大学院大学獣医学研究科博士課程修了(獣医学博士)。米国ウイスコンシン大学インフルエンザリサーチ研究 所にてAssistant Scientistを経験後、科学技術振興機構ERATO河岡感染宿主応答ネットワークプロジェクトのグループリーダーに就任。現在は東京大学医科学研究 所 感染免疫部門ウイルス感染分野の特任准教授。

 

 特別講演④ 14:00~15:15 岡崎コンファレンスセンター

井口 聖 先生(自然科学研究機構 国立天文台 電波研究部 教授)
「アルマ望遠鏡、ついに始動! -天文学の新時代の扉が開かれる-」

座長  南部 篤(生理学研究所 教授)

【内容】
日米欧共同で建設したアルマ望遠鏡。南米のチリ共和国、アンデス山中にあるアタカマ砂漠、標高5000mのチャナントール高原に設置さ れた究極のミリ波サブミリ波電波望遠鏡は、世界中の多くの天文学者の期待を背に、2011年9月より初期科学運用が開始し、2013年3月には現地にて開 所式典が挙行されました。現在本格的な科学運用が行われ、日々性能向上にも努めながら、さまざまな観測成果が発表されています。本講演では、アルマ望遠鏡 が解き明かしてくれるであろう「これまでの謎」そして「新しい天文学への展開」について紹介します。また、66台のアンテナを1つに結合させる電波干渉 計、この根幹となる「開口合成法」についても紹介します。 

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井口 聖 氏

学 位授与後、国立天文台に就職し、2012年より国立天文台・総合研究大学院大学・教授。国際アルマ望遠鏡計画に従事 し、2008年より、アルマ東アジア・プロジェクトマネージャとして計画を推進。2008年度日本天文学会研究奨励賞・受賞、平成25年度・科学技術分野 の文部科学大臣表彰・科学技術賞・研究部門・受賞。

 

 

 

研究室公開

開催場所ご案内

明大寺キャンパス 

展示テーマ 備考欄
脳の分子の働きをカエルの卵で調べる  
肥満の不思議を科学する  
超高圧電子顕微鏡の見学とスマホ顕微鏡の体験実験 観察
視覚と運動を支える脳内メカニズム  体験!
脳の細胞たちを撮ってみよう
~蛍光タンパク質で脳を光らせる~
 体験!
観察

 

 

 

 

 

 


明大寺会議室

展示テーマ 備考欄
脳波を使ったうそ発見器の実演  体験!
人の『こころ』を見る ~fMRI研究~  
自分の心臓、血流の音を聞いてみよう! 体験!
体感しよう、運動学習  体験!
脳がみている世界
~あなたが見ている世界は本物か?~
 体験!
観察
遺伝子・脳・行動
―遺伝子改変マウスを用いた研究―
 
生理学実験の技術開発と公開  
君は何を見ているのか? 体験!
ウイルスベクターって何だろう? 体験!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


岡崎コンファレンスセンター

展示テーマ 備考欄
細胞を部品に分けてみよう  体験!
顕微鏡で見る脳の神経細胞
のぞいてみよう!不思議なかたち
観察
「温度」「におい」ってどうやって感じるの?
においと温度の意外なっ関係
 体験!
感じ方・考え方・覚え方のしくみ:
神経細胞の働きから解き明かす
 体験!
色がついた脳細胞を観察してみよう 観察
生殖医療を支える発生工学技術
―ネズミの体外受精やiPS細胞をみてみよう―
 
ドキドキ体験!!
♡見てみよう動く心臓♡
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 <参加者募集中企画>

ひらめきときめきサイエンス マッスルセンサー工作体験教室 (要予約)
「脳の中で神経の電気信号はどうやって伝わっていくか調べてみよう!
カラダの電気信号でロボットアームを動かす!!」

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開催日:2014年10月4日(土) ※申し込み締め切りは9/8 17:00
時 間: 中学生 10時受付  高校生 14時受付
会 場:一般公開 明大寺会場 生理学研究所 広報展示室
共  催:日本学術振興会

【お問い合わせ先】自然科学研究機構 生理学研究所技術課

☆アンケートに答えて生理研オリジナルノートブックをもらおう!

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  生理研公式キャラクター のう君
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☆5つのスタンプ集めてね!生理研オリジナルのすてきなお土産をプレゼント

話題2 生理研が豪州New South Wales大学(UNSW)医学部との学術協定に調印。

8月14日に井本所長と鍋倉副所長が、生理研とUNSW医学部間の学術協定調印のため豪州を訪問し、協定書に双方が署名しました。UNSWはシドニーにある学生数約5万人の国立大学で、オーストラリアTop 5の一つです。UNSWの生理学・神経科学の規模はそれほど大きくありませんが、オーストラリアの伝統として電気生理をはじめとする計測技術を得意とし、特に人工内耳の基礎研究が盛んに行われています。
生理研とUNSWの研究交流が、両研究所にとってこれまでにない新しい研究アプローチをもたらし、素晴らしい発見への礎となることが期待されます。

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生後の視覚機能を支える神経回路の発達には生後の正常な視覚体験が必要である

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内容

私たち哺乳類の脳の機能は、生まれ育った環境に適応できるように生後の体験や学習に依存して発達します。今回、生理学研究所の石川理子研究員と吉村由美子教授らは、生後の視覚体験を操作したラットを用いて、一次視覚野における神経細胞回路網の発達過程を詳細に調べました。その結果、生後発達期に正常な視覚体験をすると視覚野に微小神経回路網が構築されますが、視覚体験を全く経ない、あるいは形ある物を見ることなく生育したラットの視覚野では、微小神経回路網が形成されないことがわかりました。本研究成果は、正常な脳機能の発達に生後どのような体験が必要となるのかを知る上で重要と考えられます。

<研究背景>
脳の機能は、生後の体験や学習に依存して発達することが知られています。例えば、生後発達期に様々な視覚体験を経て成熟すると、物を認知・識別する能力が向上しますが、物を見ずに成長すると、その能力が弱まります。つまり正常な脳機能の発達には、積極的な脳の活動によってもたらされる神経回路の形成が重要であると考えられます。しかし、その詳細なメカニズムは、未だに明らにされていないのが現状です。

<研究内容>
生後の視覚体験は、脳の視覚野において神経回路の発達にどのような影響を与えるのでしょうか。私達は、① 正常な視覚体験を経たラット、② 生後開眼したばかりの未熟なラット、③ 暗室で飼育し全く視覚体験のないラット、④ 明るさの変化は体験しているが、物の形など意味のある視覚体験を遮断されたラット、といった4種類の成育過程を経たラットを用い、各々の視覚野の神経回路を詳細に調べました(図1)。その結果、正常な視覚体験を経たラットの視覚野には、多くの神経結合により構築された微小神経回路網が形成されていました。この微小神経回路網は、様々な視覚情報を混同することなく、各々を認知・処理する上で重要な役割を担うと考えられています。②の、生後開眼したばかりの未熟なラットの視覚野では、微小神経回路網は未だ形成されていませんでした。③の視覚体験のないラットでは、開眼直後のラットと同様、微小神経回路の形成は認められませんでした。さらに、④の意味のある視覚体験を遮断されたラットでは、微小神経回路網の発達は阻害されました(図2)。これらの結果は、視覚野の情報処理に必要な微小神経回路網の形成が、生後発達期の視覚体験の度合いによって、その形成が左右されることを示しています。


 本研究はJST戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)の「脳情報の解読と制御」研究領域(研究総括:川人光男(株)国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所長)における研究課題「視覚系をモデルとした、情報処理の基盤をなす神経回路の解析」(代表研究者:吉村由美子)および文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

<用語の説明>
1. 一次視覚野
 網膜で受容された視覚情報を受け取る脳領域。後頭部にあり、ここで処理された視覚情報は高次視覚野へと送られる。
2. 微小神経回路網
 結合(シナプス結合)を介して相互に情報をやり取りする神経細胞のペアと、そのペアに情報を伝達する周囲の神経細胞群により形成される微細な神経回路網。それぞれの微小神経回路網は独立した視覚情報処理を担うと考えられている。

今回の発見

一次視覚野において、視覚情報処理に重要と考えられる微小神経回路網の形成には、生後発達期の正常な視覚体験が重要であることを見出しました。

図1 電気生理学的手法と光スキャン刺激法による神経回路網の解析

press20140911yoshimura-1.jpg

 

 

 

一次視覚野の2/3層にある錐体細胞から記録を行いました。局所的に神経細胞を活動させることで、効率的に神経回路網の解析を行うことができます。

 

 

図2 生後の視覚体験に依存して微小神経回路網は成熟する

press20140911yoshimura-2.jpg生後の視覚体験に依存した一次視覚野の微小神経回路網の形成を示しています。生後正常な視覚経験を経た場合、入力される多様な視覚情報を混同することなく処理を行うための、独立した微小回路網が形成されています。対して暗室で飼育することで全ての視覚情報を遮断した場合では、開眼直後の未成熟な一次視覚野と同様、微小神経回路網は存在せず、また物の形などの視覚入力を遮断した場合では、独立した微小神経回路網の形成が阻害されました。この微小神経回路網が正常に形成されないことが、認知能力低下の一要因となっていると考えられます。

この研究の社会的意義

本研究は世界で初めて、選択的な神経結合による神経回路網が多様な視覚入力を受けることにより出来上がることを示しました。この研究成果は、脳が担う情報処理機能メカニズムへの理解を深めるとともに、脳が健やかに育まれる仕組みを解明にする一助となると考えられます。

論文情報

Experience-dependent emergence of fine-scale networks in visual cortex
Ishikawa A, Komatsu Y, Yoshimura Y
Journal of Neuroscience オンライン版 2014年9月10日

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 視覚情報部門
研究員    石川 理子    (イシカワ アヤコ)
教授 吉村 由美子 (ヨシムラ ユミコ)
Tel: 0564-55-7731
email:ayakoi@nips.ac.jp 
    yumikoy@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721 
email: pub-adm@nips.ac.jp
 

マイナビニュースに柿木教授のインタビュー記事が掲載されました。


柿木研と中央大学との共同研究がプレスリリースされました。

P2X2受容体のポアのゲーティングに伴う、膜電位とATPに依存する構造変化

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内容

 P2X2は、細胞外のATPによって活性化される陽イオンチャネルである。P2X2は、2回膜貫通型のサブユニット3個が会合して形成されるが、その分子内に、典型的な膜電位センサーと考えられる部位は存在しない。我々は、これまでの研究で、P2X2が膜電位センサー部位を有しないにも関わらず、ATP投与後の定常状態で膜電位依存性のゲーティングを示すことを明らかにした。
近年、Eric Goueuxの研究グループによりゼブラフィッシュのP2X4のATP 非結合時(閉状態)およびATP結合時(開状態)の結晶構造が解かれ、ATP結合に伴う構造変化が示された。しかし、結晶構造には、膜電位やその変化は反映されていないので、膜電位依存的にどのような構造変化が起こるかについては、未だ情報は無い。
本研究では、膜電位とATPに依存するラットP2X2の構造の変化を、「点変異により導入したCys残基のCys修飾剤による修飾の速度の、状態に依存する違いとして捉える」ことを目的とした。そこで、ATP結合部位とチャネルポアを連結するリンカー部位に位置するAsp315とIle67に点変異によりCys残基を導入したコンストラクト (D315C & I67C) を作成しツメガエル卵母細胞に発現させた。そして、二本刺し膜電位固定法により、Cys残基に結合するCd2+ の投与によるチャネル電流の変化を記録し、その速度を、異なる状態間で比較解析した。
ATP存在下において、過分極状態と脱分極状態での速度を比較したところ、過分極状態の方が、優位に修飾が速かった(図1)。また、修飾速度は、ATP濃度の上昇につれて加速した(図1)。次に、ATP非存在下と存在下での修飾速度を比較したところ、ATP非存在下では非常に遅く、過分極状態でも、脱分極状態でも、ほとんど修飾が起らなかった。これらの結果から、リンカー部位において、膜電位とATP結合の有無に依存して構造の変化が起きることが明らかになった。
さらに、膜電位依存性のゲーティングを示さないチャネルポアの変異体Thr339Ser (T339S) を対象に、同様な実験を行ったところ、Cys変異体 (D315C&I67C&T339S) のCd2+ による修飾速度は、過分極と脱分極で差を示さなかった(図2)。この結果は、捉えた膜電位に依存する構造変化が、膜電位依存的なポアのゲーティングに伴うものであることを示している。
本研究によって、膜電位センサーを有しないP2X2のATP結合部位とチャネルポアをつなぐリンカー領域において、ATP結合に依存して、また膜電位に依存して、構造変化が起こることが、点変異により導入したCys残基のCd2+ による修飾速度の違いとして捉えられた。この結果から、P2X2が、ATPと膜電位の両方を複合的に感知して構造変化を起こすチャネルであることが示された(図3)。

図1

20141008kubo1JPN.JPGCys変異体 (D315C & I67C) の、Cd2+ 投与による電流修飾速度は、膜電位およびATP濃度に依存して変化する。

図2

 20141008kubo2JPN.JPG膜電位依存的ゲーティングを失ったT339S変異体 (D315C&I67C&T339S) の、Cd2+ による修飾の速度は、膜電位に依存して変化しない。青、赤は、図1で示したCys変異体 (D315C & I67C)のデータ。

図3 

20141008kubo3JPN.JPGP2X2のチャネルポアとATP結合部位をつなぐリンカー領域において、ATP結合と膜電位の両方に依存して構造変化が起こる。
 

論文情報

Batu Keceli and Yoshihiro Kubo
J Physiol September 2014; doi:10.1113/jphysiol.2014.278507

 

CRISPR/Cas9システムによる、ノックイントランスジェニックフィッシュの高効率作製

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概要

 CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集は、Talen等の従来方法に比べて簡便であることから、急速に利用が広がっている。最近、ゼブラフィッシュにおいて、CRISPR/Cas9システムを介した長鎖DNA断片のノックインが、相同組み換え非依存的なDNA修復を介して可能であるということが報告された(Auer, et al: Genome Res 24, 142–153)。論文の中で著者らは、トランスジェニックフィッシュ中のGFP配列を、Gal4に変換することに成功している。これまで、ゼブラフィッシュには効率的なノックインの方法がなかったが、この報告によりノックインフィッシュが作製できる可能性が示唆された。しかし、内在遺伝子領域に長鎖DNA断片をノックインした報告は未だなく、CRISPR/Cas9システムを用いて実用的な効率でノックイントランスジェニックフィッシュを作製できるかについては不明であった。そこで、本研究において我々は、Auer等の方法を改変したうえで、細胞種特異的にレポーター遺伝子を発現する複数系統のノックインゼブラフィッシュの作製を試みた。
 ノックインフィッシュを作製する際には、ゲノムの目的配列を標的とするsgRNA1と、ドナープラスミドを標的とするsgRNA2、熱ショックプロモーターを含むドナープラスミド、Cas9 mRNAを受精卵に注入した(図1)。効率の良いsgRNAを用いた場合には、5-10%の注入胚で、レポーター遺伝子の発現が、内在性遺伝子の発現領域において幅広く観察された。これらの胚を選択して育てたところ、25%以上という高い効率で次世代にノックインフィッシュを得ることができた。本研究では、4種類の内在性ゲノム配列を標的としたノックインを行い、それぞれ、特定の神経細胞群にレポーター遺伝子を発現するノックインフィッシュ系統を複数得ることに成功した(図2)。
 本研究は、CRISPR/Cas9システムを用いて、レポーター遺伝子を内在性ゲノム配列にノックインしたトランスジェニックフィッシュ作製の初めての報告である。CRISPR/Cas9システムを用いたノックインフィッシュの作製は、簡便、かつ高効率であり、今後、トランスジェニックフィッシュ作製の標準的な手法の一つとなると予想される。また、他の動物種にも広く応用されることが期待される。

論文情報

Yukiko Kimura, Yu Hisano, Atsuo Kawahara and Shin-ichi Higashijima
Efficient generation of knock-in transgenic zebrafish carrying reporter/driver genes by CRISPR/Cas9-mediated genome engineering.
Scientific reports 4, 6545 (2014). DOI: 10.1038/srep06545

図1 CRISPR/Cas9システムを用いたノックイン方法の模式図

higashijima-1.jpgCRISPR/Cas9システムによる標的DNA配列の切断にはヌクレアーゼであるCas9と、標的配列に相同な配列を持ち、Cas9を標的配列に誘導するガイダンス分子となる短鎖RNA(sgRNA)が必要である。ノックインフィッシュ作製の際には、ゲノムを標的とするsgRNA1と、ドナープラスミドを標的とするsgRNA2、sgRNA2の標的配列を持つドナープラスミド、Cas9 mRNAを受精卵に注入した。CRISPR/Cas9システムによってドナープラスミドとゲノムが細胞内で同時に切断されると、直鎖化されたドナープラスミドがゲノム切断部位に、相同組み換え非依存的なDNA修復を介して高効率に組込まれる。本研究では、ドナープラスミドに、熱ショックプロモーターとレポーター遺伝子配列も含ませ、ゲノムのsgRNA標的配列は、標的遺伝子の上流に設計した。このドナープラスミドが標的遺伝子上流のゲノム切断部位に組込まれると、熱ショックプロモーターに、標的遺伝子の制御領域が働きかけ、標的遺伝子発現細胞におけるレポーター遺伝子の発現を促す。

図2 本研究で作製したノックインフィッシュの例

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口腔の創傷治癒を促進する生体メカニズムを解明

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概要

 九州大学大学院歯学研究院の城戸瑞穂准教授、合島怜央奈研究員(佐賀大学大学院医学系研究科博士課程4年)、自然科学研究機構生理学研究所の富永真琴教授らのグループは、口腔粘膜上皮に発現している温度感受性イオンチャネルTRPV3 が、温かい温度を感知し、創傷の治癒を促進することを明らかにしました。口腔の傷が皮膚の傷よりも早く治癒し、瘢痕も少ないことに、このTRPV3が関係すると考えられることから、創傷治癒の新たな治療薬の開発に繋がる研究成果と言えます。
本研究成果は、20141028日(火)に米国科学雑誌『The FASEB Journal』に掲載されました。

 <背景>
 口腔は、消化管の入口にあり、飲食物などの多様な刺激に常に曝されています。口腔に加わる温度や機械刺激などは、粘膜に分布している神経によって感じているとされています。研究グループでは、口腔への刺激の受容には口腔内を被覆している粘膜上皮も関わっているのではないかと考え、上皮細胞に発現するセンサーとしてTRPチャネル(※1)に注目してきました。また、飲食などの際に口腔粘膜に傷を受けることも少なくありませんが、口腔に生じた傷は皮膚よりも早く治り、傷跡が残りにくいことが知られています。しかし、その分子メカニズムは分かっていませんでした。

内容

研究グループは、カルシウム透過性の高い温度感受性のチャネルであるTRPV3に着目して研究を行いました。口腔粘膜は口の中を覆っており表面には上皮細胞が層をなしています。口腔上皮細胞は温かい温度に反応を示すこと(図1)、そして、温度の受容をTRPV3とやはり温度感受性チャネルであるTRPV4(※2)が担っていること、TRPV3がより強く働いていることを明らかにしました。また、研究グループは、皮膚の培養角化細胞よりも口腔の培養上皮細胞の方がTRPV3の発現が強いことを発見し、TRPV3が口腔の傷の治癒に関わるのではないかと考えました。そこで、マウスに抜歯を行ったところ、TRPV3遺伝子欠損マウスでは、野生型マウスに比較して治癒が遅れていることが分かりました(図2)。

図1 口腔上皮細胞の温度応答

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2 マウス口腔内の写真。TRPV3欠損マウスでは、青い線で囲まれた抜歯後の傷の面積が野生型マウスよりも広い。

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さらに、TRPV3欠損により上皮細胞の増殖が野生型に比べて劣っていることが、創傷治癒の遅延に関与していることが分かりました(図3)。そして、培養口腔上皮細胞にTRPV3を活性化させる薬を投与すると増殖が促進しました。また、上皮細胞の成長と増殖には上皮成長因子受容体(EGFR)(※3)の活性化が必要ですが、TRPV3の欠損により活性化が抑えられていました(図4)。

 

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図3 マウス口腔粘膜で増殖している細胞の数がTRPV3欠損マウスでは少ない。 図4 TRPV3欠損マウスでは上皮成長因子受容体の活性化が野生型マウスよりも抑えられていた。
 

 

効果

 口腔粘膜が適切に維持され、口腔で適切に刺激を感じることで「食べる」ことができます。口腔の粘膜上皮は入れ替わりが速く、傷が治りやすいことは以前から知られていましたが、本研究で、温度感受性のチャネルがこの仕組みに関わることが明らかになりました。現在、皮膚や粘膜の傷の治療には、創傷被覆材などが使用されていますが、根本的な治療はありません。TRPV3は、口腔だけでなく消化管粘膜や皮膚にも発現していることから、火傷や手術創、口内炎などの治療に、このTRPV3チャネルを標的とした温熱療法や薬剤の開発が期待されます。

今後の展開

 温度感受性のチャネルが口腔粘膜の維持管理にどのように関わっているのかを明らかにしていきます。口腔の感覚と上皮や神経との関わりを明らかにするとともに、TRPチャネルを標的とした作動薬(※4)の中で創傷治癒が効率よく促進される条件を見出したいと考えています。

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<用語解説>

※1 TRP チャネル:
細胞の表面を覆う脂質二重膜はイオンを透過しないため、細胞膜にはイオンを透過させるイオンチャネルが存在している。TRP(transient receptor potential)チャネルはそのイオンチャネルの一種で、ナトリウムイオンやカルシウムイオンを透過する非選択的陽イオンチャネルであり、重要な創薬標的とされている。

※2 TRPV3、TRPV4チャネル:
TRPチャネルの一種で正式にはtransient receptor potential channel vanilloid 3、transient receptor potential channel vanilloid 4。温度感受性のチャネルとして知られており、皮膚のバリア機能にも関与することが知られている。

※3 EGFR:
上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor)。上皮細胞が成長(増殖や移動)するために様々な分子を受容するタンパク質。刺激受容によりリン酸化(活性化)されると上皮細胞が増殖する力が高くなり、活性が低下すると傷の治りが悪くなることが知られている。

※4 作動薬:
チャネルなどの受容体に働き、生体反応を引き起こす薬剤。

論文情報

掲載誌:The FASEB Journal
英文タイトル:The thermosensitive TRPV3 channel contributes to rapid wound healing in oral epithelia
著者:Reona Aijima, Bing Wang, Tomoka Takao, Hiroshi Mihara, Makiko Kashio, Yasuyoshi Ohsaki, Jing-Qi Zhang, Atsuko Mizuno, Makoto Suzuki, Yoshio Yamashita, Sadahiko Masuko, Masaaki Goto, Makoto Tominaga, Mizuho A. Kido

お問い合わせ

九州大学大学院歯学研究院
准教授 城戸 瑞穂(きど みずほ)
電話:092-642-6302
FAX:092-642-6304
Mail:kido@dent.kyushu-u.ac.jp

【研究グループについて】
本研究成果は、九州大学、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 生理学研究所、佐賀大学、自治医科大学との共同研究によるものです。
なお、佐賀大学大学院医学系研究科 博士課程 合島怜央奈(日本学術振興会特別研究員DC2)は、2013年3月まで2年間、九州大学大学院歯学府に特別研究学生として在籍し、本研究に参加しました。


【本研究について】
本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金挑戦的萌芽研究「温度感受性を利用した新たな創傷治療薬の開発(研究課題番号26670870代表者 城戸瑞穂)」の研究助成により得られたものです。

 

サル下側頭皮質色領域における色情報と輝度コントラスト情報の関係を解明

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概要

 私たちの色知覚は色刺激の色(色度)だけでなく色刺激がおかれた背景の明るさに大きく影響されます。例えば同じ色でも背景が明るければ茶色に感じ、暗ければ橙色に感じるといったことが起きたり、無彩色(白、黒、灰)の色刺激では、背景より明るいときには白に見える刺激が、背景より暗いときには黒に見えるといった大きな変化が起きたりします。色の情報は目から大脳皮質一次視覚野に伝えられた後、腹側視覚経路とよばれる経路を通って処理されます。サルの大脳視覚皮質でこの経路に属するV4野や下側頭皮質(IT)は色の知覚に深く関与していると考えられており、特定の色を見ているときに強い反応を示す「色選択性細胞」が多く存在していることが知られています(図1A)。また下側頭皮質には色選択細胞がたくさん固まっている場所が前の方と後の方に存在することが見いだされており、それぞれ下側頭皮質前部色領域(AITC)と後部色領域(PITC)と名付けられています(図1B)。明るさの影響を受けて変化する色の見えのメカニズムを理解するためには、これらの場所に存在する色選択性細胞が表現する色の情報が、背景との明るさの違いによってどのように変化しているのかを明らかにすることが重要です。そのため本研究ではサルのV4野、PITC、AITCのそれぞれに存在する色選択性細胞の活動を記録し、個々の色選択性細胞の応答や色選択性細胞集団が表現する色の情報が、色刺激の輝度コントラスト(背景との明るさの違い)によってどのように変化するかを調べました。その結果、PITCの神経活動がもっとも色の見えに相関した変化を示すことが分かりました。その一方で、AITCの神経活動は明るさ情報とは切り離された色情報のみを表現していることも明らかになりました。

説明

 注視課題を遂行中のマカクザルに15色の色刺激をCRTモニタの背景(灰色:10 cd/m2)より高い輝度 (20 cd/m2:明るい色刺激セット)と低い輝度(5 cd/m2:暗い色刺激セット)で呈示し(図2)、微小電極を用いてサルのV4野およびPITC、AITCから色選択性細胞の活動を記録した。そして、明るい色刺激に対する神経活動と暗い色刺激に対する神経活動の比較を行った。記録された色選択性細胞の応答の例を図3に示す。このニューロンは明るい色刺激セットでも暗い色刺激セットでも赤紫色に強く応答したが、最大応答を示した色は両者の間で少しずれていた。

 図1

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図1の説明
A.サル大脳皮質腹側視覚経路。B. 色知覚関連領野。視覚情報はV4野、PITC、AITCの順に伝達される。V4:V4野、PITC:下側頭皮質後部色領域、AITC:下側頭皮質前部色領域

 

図2

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図2の説明
実験で用いた30個の色刺激。明るい色刺激セット(A)と暗い色刺激セット(B)。数字は同一の色度を持つ刺激対を表している。

 

図3

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図3の説明
V4野から記録した赤紫によく反応した一つの色選択性細胞の応答例。神経活動をperi-stimulus-time-histogram(PSTH)(パネル左上)と円の大きさ(右下)でそれぞれ表している。A.明るい色刺激セットでは12番の色に最も強く応答した。B.暗い色刺激セットでは9番の色に最も強く応答した。AとBでは色選択性の全体的な傾向は似ているが、神経応答のピークがわずかに異なっている。数字は同一の色度を持つ刺激対を表している。PSTHは10ミリ秒のビン毎の発火頻度を示したもの。PSTH下の横線が刺激呈示期間を表す。

 

 色刺激の輝度コントラストの変化が細胞の色選択的な応答に与える影響を調べるために、同一の色度の刺激対への応答を比較することで、明るい色刺激セットに対する応答強度と暗い色刺激セットに対する応答強度の相関を細胞ごとに計算した。その結果、V4野とPITCでは相関の低い細胞の割合が大きいのに対し、AITCでは大部分の細胞は高い相関を示すことが分かった(図4)。このことは、AITCでは色選択性細胞の応答に対する輝度コントラストの影響がV4やPITCに比べて小さく、輝度コントラストによらず色選択性が安定していることを示している。

図4

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図4の説明
個々の色選択性細胞において、明るい色刺激セットによって引き起こされた応答強度と暗い色刺激セットによって引き起こされた応答強度から計算した相関係数の分布。相関が低いほど、色選択的応答に対する輝度コントラストの影響が大きいことを表している。

 

 次に、色度によって輝度コントラストの影響の強さがどのように変化するかを調べた。色度が同一である刺激対ごとに、明るい色刺激に対する神経細胞集団の応答強度と暗い色刺激に対する神経細胞集団の応答強度の相関を計算した。
その結果、V4野とPITCの神経細胞集団の応答強度に対する輝度コントラストの影響は視覚刺激の色度に依存していた。V4野では青やシアンなどの色で輝度コントラストの影響が強い(図5左)のに対し、PITCでは彩度の高い色(鮮やかな色)に比べて無彩色(白/黒)や低彩度の色で輝度コントラストの強い影響がみられた(図5中央)。AITCでは、輝度コントラストの影響はどの色でもほとんどみられなかった(図5右)。

図5

komatsuHoukoku-5.jpg

図5の説明
色度ごとに明るい色刺激に対する細胞集団の応答強度と暗い色刺激に対する細胞集団の応答強度の相関(r)を円のサイズで表し、色度座標の位置にプロットしている。低い相関係数(r)は、細胞集団の応答強度が明るい色刺激と暗い色刺激で異なっていたことを意味している。

 

 これら三領野のそれぞれの細胞集団が、背景より明るい色と暗い色の情報をどのように表現しているのかを調べた。そのために、30個の色刺激(明るい色刺激15個+暗い色刺激15個)の間で神経細胞集団の応答強度の類似関係を多次元尺度構成法(MDS)により計算し、二次元平面上に可視化した。その結果、いずれの領野においても神経細胞集団の活動は色度の情報を規則的に表現していた(図6)。さらに、V4とPITCの細胞集団の応答強度は明るい刺激セットと暗い刺激セットをはっきり区別していることが分かった(図4左、中央)。特にPITCでは、低彩度(色刺激#11)や無彩色(色刺激#16)の刺激で明るい色と暗い色の区別が顕著だった(図6中央)。一方AITCの細胞集団の活動は、輝度コントラストが異なる色刺激を区別せず、色相の順に色を規則的に表現していることが分かった(図6右)。

図6

komatsuHoukoku-6.jpg

図6の説明
30個の色刺激に対する神経集団の応答の類似度を、相関係数rを用いて計算し、応答の非類似度(1-r)を二次元平面に投影した図。丸いシンボルが明るい色に対する神経集団応答、四角いシンボルが暗い色に対する神経集団応答を示す。シンボル間の距離が長いほど、色刺激によって引き起こされる神経集団の応答の類似度が低いことを表している。どの領野も近い色相の色が近くにプロットされており、色度の情報が規則的に表現されているが、V4 とPITCでは明るい色と暗い色が明瞭に離れてかたまっていることが分かる。

 

 

Namima T, Yasuda M, Banno T, Okazawa G, Komatsu H

Effects of luminance contrast on the color selectivity of neurons in the macaque area
V4 and inferior temporal cortex
The Journal of Neuroscience, November 5, 2014 • 34(45):14934–14947
 


 

 

柿木教授がTV出演されます!

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柿木隆介教授がTV出演されます。

放送日時:12月7日(日)午前6時30分~
番組名:中京テレビ「所さんの目がテン」
内容:「ざわちんのメーク術で、なぜ人はだまされるのか?顔認識システムはだませるか?」etc

どうぞご覧ください。
 

タンパク質の異常構造を修復することによりてんかんを軽減

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内容

てんかんは、人口の1%程度に発症する頻度の高い神経疾患であり、反復性のけいれんや時には意識消失を伴います。これまで知られているヒトのてんかん原因遺伝子の多くは神経細胞間の情報伝達(シナプス伝達)を直接担うイオンチャネルタンパク質でした。そのため、現在使用されている抗てんかん薬の多くはイオンチャネルを標的として開発されてきました。しかし、一部のてんかん症例ではこれら薬剤だけではコントロールが難しい場合もあり、新たな治療戦略が求められています。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の深田正紀教授、深田優子准教授および横井紀彦特任助教の研究グループは、北海道大学医学部の渡辺雅彦教授、オランダErasmus大学のDies Meijer教授、東京大学先端科学技術研究センターの浜窪隆雄教授のグループとの共同研究により、遺伝性てんかんのひとつである常染色体優性外側側頭葉てんかん(Autosomal Dominant Lateral Temporal Lobe Epilepsy:ADLTE)の原因がタンパク質の構造異常に基づくことを見出しました。そして、化学シャペロンという薬剤で異常タンパク質を修復することにより、てんかんが軽減することをマウスモデルで明らかにしました。
Nature Medicine誌(2014年12月9日電子版)に掲載されます。
 

 研究グループは遺伝性側頭葉てんかんの原因遺伝子LGI1の遺伝子変異に注目。現在LGI1は1)その変異が遺伝性側頭葉てんかんADLTEを引き起こすこと、2)LGI1に対する自己抗体が生じると記憶障害やけいれん、見当識障害を主訴とする辺縁系脳炎を引き起こすことから多くの研究者、臨床医の注目を集めています。これまでに、深田らの研究グループは分泌タンパク質LGI1がその受容体であるADAM22を介してシナプス伝達を制御すること、そして、LGI1を欠損させたノックアウトマウスではシナプス伝達異常により、生後2-3週間で致死性てんかんを必発することを報告してきました。
 今回、研究グループはヒトの側頭葉てんかん患者で見られる22種類のLGI1ミスセンス変異を体系的に解析し、それらを分泌型、および分泌不全型の2種類の型に分類しました(図1)。そしてLGI1の変異がどのようにしててんかんを引き起こすのかを明らかにするため、分泌型変異(S473L)あるいは分泌不全型変異(E383A)を有する変異マウス(ヒトてんかんモデルマウス)を作成しました。結果、分泌型変異マウスでは、LGI1は細胞外に分泌されるものの、受容体であるADAM22との結合が特異的に阻害されていることを見出しました。一方、分泌不全型変異マウスでは、LGI1はタンパク質の構造異常のために細胞内で分解されてしまい、脳の中で正常に機能するLGI1が減少することを見出しました(タンパク質構造病)(図2、3)。いずれの場合もLGI1は本来の作用点であるADAM22と結合することができず、このことが本てんかんの分子病態であると考えられます。
 さらに研究グループは、タンパク質の構造を修復しうる低分子化合物(化学シャペロン)が分泌不全型LGI1(E383A変異)の構造異常を改善させ、分泌を促進することを突き止め、LGI1変異マウスのてんかん感受性が改善することを見出しました(図4)。本研究により、タンパク質の構造異常を修復する一連の薬剤がてんかんの治療に有効である可能性が示唆され、全く新しいてんかん病態と治療戦略が提唱できたと言えます。

 深田正紀教授は「今回の研究で、遺伝性てんかんのひとつがタンパク質の構造異常に起因するものであることが明らかになり、ある種の化学シャペロンがてんかん症状の軽減に有効であることが分かりました。タンパク質の構造異常を改善することに着目した化学シャペロン療法は、これまで嚢胞性線維症(Cystic fibrosis)やライソゾーム病といった遺伝性疾患に対し試みられてきましたが、てんかん治療への応用は、今回が世界で初めての試みです。同様の治療戦略は、LGI1以外の遺伝子異常によるてんかんにも有効である可能性があります。さらに、LGI1とその受容体ADAM22を標的とする新規の抗てんかん薬の開発につながる成果だと言えます。」と話しています。

本研究は、最先端・次世代研究開発プログラム(内閣府) (H22-25)(研究代表者・深田正紀)、及び文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「シナプス・ニューロサーキットパソロジー」(領域代表:岡澤均 東京医科歯科大学難治疾患研究所教授)における研究課題「遺伝性側頭葉てんかんのシナプスおよび神経回路病態の解明」(H23-26)(研究代表者・深田優子)、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(H24-26)(研究代表者・深田優子)、文部科学省科学研究費補助金研究活動スタート支援 (H25-26)(研究代表者・横井紀彦)の一環として行われました。また、本研究の一部は、新学術領域研究「包括型脳科学研究推進支援ネットワーク」(領域代表:木村實 玉川大学脳科学研究所所長)における「リソース・技術支援」(渡辺雅彦拠点)を受けて実施されました。

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今回の発見

1.LGI1変異によって生じるヒトの遺伝性てんかんが“タンパク質構造病 (コンフォメーション病)”であることを明らかにしました(図1、2、3)。
2.ある種の化学シャペロン薬がLGI1の構造異常を修復することにより、てんかんマウスモデルにおいて治療効果があることを突き止めました(図4)。
3. LGI1リガンドとその受容体ADAM22の結合は安定な脳の興奮状態や脳高次機能を維持するための普遍的、根源的なシステムであることを明らかにしました。

図1 ヒト家族性てんかんに見られるLGI1変異の分類

20141209fukataPress-1.jpgてんかん家系でみられるLGI1変異の多くは分泌不全型(赤色)でしたが、分泌型の変異(青色)も3つ見出しました。

図2 分泌不全型LGI1(右)はシナプスへ輸送されず、細胞体に貯留する

20141209fukataPress-2.jpg野生型(正常な)LGI1タンパク質は脳内でシナプスが存在する分子層に局在しますが(左)、てんかん家系で見られる分泌不全型LGI1は、タンパク質の構造異常が原因で、細胞体に貯留しシナプスに輸送されずに分解されてしまいます。その結果、LGI1¬–ADAM22によるシナプス伝達の制御が破綻し、てんかん病態が惹起されます。

図3 LGI1変異はLGI1のシナプスへの輸送を障害したり、受容体ADAM22との結合活性を低下させる

20141209fukataPress-3.jpg分泌不全型LGI1 (赤色)は小胞体内で異常タンパク質として認識され、速やかに分解されます。一方、分泌型変異LGI1(濃青色)はシナプスで分泌されますが、受容体であるADAM22との結合能が欠損していました。

図4 LGI1-ADAM22結合量があるレベルを下回ると“てんかん病態”が生じる

20141209fukataPress-4.jpgLGI1ノックアウト(KO;–/–)マウスは生後3週間以内に致死性てんかんを必発します。また、LGI1ヘテロマウス(+/–)や今回樹立したLGI1変異マウスでは、正常なLGI1の量が半減し、てんかん感受性が亢進しています。一方、ヒトでは先天性の遺伝子変異だけでなく、後天性(主に中高年者)にLGI1自己抗体が生じ、結果としてLGI1–ADAM22結合量が減少した場合でも“てんかん病態”が惹起されます。すなわち、LGI1–ADAM22結合量がある閾値を下回ると“てんかん病態”が生じることが分かりました。したがって、化学シャペロンを代表とする“LGI1構造・分泌改善薬”や“LGI1–ADAM22結合模倣薬”はLGI1の抗てんかん作用を賦活(活性化)することで、新規の抗てんかん薬となることが期待されます。

この研究の社会的意義

(1) 新たなてんかん治療戦略の提案
化学シャペロンによるてんかんの治療戦略はタンパク質の構造異常に基づくてんかん治療に広く応用可能であることが期待されます。また、今後、LGI1とADAM22の結合を賦活する化合物が開発できれば、従来のイオンチャンネルとは異なる作用点を有する抗てんかん薬となる可能性が高く、大きな波及効果が期待できます。

(2) 新たなてんかんモデルマウスの樹立
本研究で作成したヒトてんかんモデルマウスは、他のてんかん治療薬や治療法の評価等においても高い有用性が期待できます。

論文情報

Chemical corrector treatment ameliorates increased seizure susceptibility in a mouse model of familial epilepsy

Norihiko Yokoi, Yuko Fukata, Daisuke Kase, Taisuke Miyazaki, Martine Jaegle, Toshika Ohkawa, Naoki Takahashi, Hiroko Iwanari, Yasuhiro Mochizuki, Takao Hamakubo, Keiji Imoto, Dies Meijer, Masahiko Watanabe & Masaki Fukata

お問い合わせ先


<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 生体膜研究部門
教授   深田 正紀(フカタ マサキ)E-mail: mfukata@nips.ac.jp
准教授 深田 優子(フカタ ユウコ)E-mail: yfukata@nips.ac.jp
Tel:0564-59-5873 Fax:0564-59-5870

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721 
email: pub-adm@nips.ac.jp

言葉解説

“てんかん”
脳神経細胞や神経回路の過剰あるいは無秩序な興奮によって反復性のけいれん発作や意識消失等の発作が生じる疾患の総称で、人口の約1%程度に発症する脳疾患。

“てんかん関連分子LGI1”
神経細胞に特異的に発現する分泌タンパク質であり、その変異は遺伝性側頭葉てんかんを引き起こします。LGI1はシナプスで分泌され、受容体であるADAM22と結合し、シナプス伝達(AMPA受容体機能)を精緻に制御します。LGI1を完全に欠失したノックアウトマウスでは、シナプス伝達の異常により全てのマウスが致死性てんかんを必発します。

“シナプス伝達”
神経細胞同士はシナプスという接続部を介して互いに情報伝達を行います。シナプス伝達はこのシナプス間の情報伝達を指します。

“化学シャペロン”
化学シャペロン(ケミカルシャペロン)とはタンパク質高次構造の形成や安定化を促す低分子化合物の総称で4-phenyl butyric acid(4PBA)などがあります。


素材表面のテクスチャを知覚する脳メカニズムを解明

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内容

私たちの持つ重要な視覚機能の一つに様々な素材(木材、金属、布など)の表面のテクスチャを識別する能力が挙げられます。この機能が私たちの脳内のどのような働きで実現されているのか多くは知られていませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の小松英彦教授、岡澤剛起研究員および理化学研究所の田嶋達裕研究員(現所属:ジュネーヴ大学)のグループは、ヒトと近縁な種であり高度に視覚機能の発達したマカクザルがテクスチャを見ているときの脳活動を計測し、得られた活動が、以前米国の研究者の開発したコンピュータ上のモデルにより部分的に説明できることを明らかにしました。本研究結果は、米国科学アカデミー紀要(2014年12月23日オンライン)に掲載されます。

 私たちが目にする多くの物体の表面には、様々なテクスチャが存在し物体固有の質感を生み出します。テクスチャを識別する視覚の機能は、物体の素材の判断(木材、金属、布など)や、物体の状態の判断(硬い、重い、新鮮である、など)に貢献する重要な働きをしています。しかしこれまで視覚入力が脳内でどのように処理されてテクスチャの識別が行われ素材の認知に繋がっているのか、そのメカニズムについてはあまり知られていませんでした。そこで本研究ではヒトと近縁な種であり高度に視覚機能の発達したマカクザルを用い、様々な素材から得た多数のテクスチャ画像(図1)をサルに見せた時の大脳のV4野と呼ばれる領域の神経細胞の応答を調べました。
 その結果、V4野の神経細胞は特定のテクスチャ画像に選択的に応答することが分かりました(図2)。そしてこれらの細胞応答は、「テクスチャ合成」モデルと呼ばれる以前米国の研究者が開発した画像処理の工学的手法(Portilla & Simoncelli 2000、図3左)で用いられる画像特徴量の組み合わせにより部分的に説明できることが明らかとなりました(図3右)。また、この応答はヒトがさまざまなテクスチャを見分ける能力とよく対応していることも分かりました(図3右)。本研究は大脳の神経細胞がどのような画像特徴にもとづいてテクスチャを見分けているかを初めて示した研究であり、テクスチャの知覚やそれに基づく質感認知のメカニズムの一端が明らかなりました。また本研究の成果はヒトと同じように物の質感を見分ける機械を作る上でも役に立つ示唆を与えると考えられます。
 本研究は文部科学省科研費新学術領域「質感脳情報学」および日本学術振興会特別研究員奨励費の支援により行われました。

今回の発見

1.ヒトと近縁な種であり高度に視覚機能の発達したマカクザルがテクスチャを見ているときの脳活動をコンピュータ上のモデルで部分的に説明することに成功した。
2.得られた脳活動がヒトのテクスチャ識別能力ともよく対応していることが明らかとなった。

<用語解説>

テクスチャとは
さまざまな自然物や人工物は物体表面に素材に固有な細かい凸凹模様を持ちます。このような物体を見ると、網膜の画像には素材に固有な細かい模様が生じます。これがテクスチャです。テクスチャは物の素材や状態を判断する重要な手がかりになります。

テクスチャの画像特徴量とは
物体表面画像のテクスチャは、一見同じパターンが規則正しく繰り返しているように見えますが、細かく見ると細部が違っています。同じように見える理由は、画像中の画素の明るさや色の配置に何らかの規則性があるからです。このような画像の持つ規則性をはかる物差しのことを画像特徴量といいます。

テクスチャ合成とは
あるテクスチャの画像と同じように見えるテクスチャの画像を人工的に合成する技術はニーズが高くさまざまに開発されています。これらの手法では、元画像と同じ特徴量を持つように別の画像を変化させることにより、元と一見見分けのつかないテクスチャ画像を合成することができます。それらの中で、生体が処理する画像特徴量を用いた手法がいくつかあり、今回研究に用いたPortillaとSimoncelliの手法はその代表的なものです。

V4野とは
目から大脳に伝えられた視覚情報は最初に第一次視覚野(V1とよばれる)で処理され、その後段階的に複数の視覚野で処理が行われます。V4野はそれらの視覚野の一つで、物体に関する視覚情報の処理に関係していると考えられています。

図1 使用したテクスチャ画像の例

 

20141224Komatsu-1.jpg実験には8つの素材を撮影した写真から採取した一万枚以上のテクスチャを用いました。(図はその中の一例です)

図2 V4野の神経細胞のテクスチャへの応答の例

20141224Komatsu-2.jpg左図:サルがテクスチャ画像を見ている時のV4野の神経細胞の応答を記録しました。
右図:ある神経細胞から得られた応答の一例。この細胞は木目のようなテクスチャに強く応答しました。各テクスチャの下部にあるグラフは、神経活動の強さを時間経過とともに示したヒストグラムです。横軸は時間、縦軸は20ミリ秒あたりの発火率を表します。神経細胞ごとに応答するテクスチャは様々でした。

図3 「テクスチャ合成」モデルと結果の概要

20141224Komatsu-3.jpg左図:V4野の細胞応答を説明するのに用いた「テクスチャ合成」モデル。このモデルでは一枚のテクスチャ画像から、「フィルタ処理」や「相関計算」といった複雑な演算により、多数の特徴量を算出します。
右:結果の概要。多数のテクスチャ画像を見ている時のマカクザルの脳活動を計測した一方で、「テクスチャ合成」モデルに基づき画像の特徴量をコンピュータ上で計算したところ、モデルが得られた脳活動の一部を説明できることが分かりました。またこのモデルに基づき解析を行った結果、脳活動がヒトのテクスチャ識別能とよく類似した特徴を持っていることが分かりました。

この研究の社会的意義

今後さらに研究が進むことで、ヒトの脳がテクスチャを識別する仕組みをコンピュータ上で再現できる可能性があります。このようにヒトと同様の識別能を持つ機械があれば、商品や素材の画像に基づく自動品質鑑定やユーザーの希望に合わせた写真の質感加工技術などといった工学的応用が期待されます。

論文情報

Image statistics underlying natural texture selectivity of neurons in macaque V4.
G. Okazawa, S. Tajima, H. Komatsu
Proceedings of the National Academy of Sciences, USA.   2014年 12月

お問い合わせ

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚認知情報研究部門
教授 小松英彦 (コマツヒデヒコ)
Tel: 0564-55-7861   FAX: 0564-55-7865
email: komatsu@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
TEL: 0564-55-7722、FAX: 0564-55-7721 
email: pub-adm@nips.ac.jp
 



 

Invitation to NIPS: NIPS Internship 2015 (approximately 2 weeks)

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National Institute for Physiological Sciences (NIPS) (Department of Physiological Sciences, School of Life Science, The Graduate University for Advanced Studies (SOKENDAI) invites foreign students who wish to stay at NIPS for approximately 2 weeks (internship) in 2015. The aim of the internship is to provide students who are thinking of entrance to our PhD course program with an opportunity to experience our education system and research activity. We believe this opportunity will be very helpful to students in making a decision to enter our graduate university. We will support travel and stay expenses.


Deadline : February 6, 2015

To see the detail, please click here!

生理研が革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)に参加!

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革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)とは、実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し、ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進することを目的として創設されたプログラムです。

このたび、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現(山川義徳プロジェクト・マネージャー)」に、生理学研究所が参加する事になりました。

詳しくはこちらから。
 

5年一貫制大学院入試における英語の評価についての重要なお知らせ

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(2015年8月および2016年1月実施大学院入試)

総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻5年一貫 制大学院入試では、TOEIC公開テスト、又はTOEIC Institutional Program (IP)テストの成績で英語の評価を行います。本専攻を受験希望の方は下記の点を留意して受験準備ください ますようお願いいたします。なお入学試験当日に英語の筆記試験は行いませんのでご注意ください。

対象となるTOEICテスト

選抜試験実施日からさかのぼり2年以内に受験したTOEIC公開テスト、又はTOEIC Institutional Program(IPテスト)の試験の成績を採用します。

スコアシートの提出

公開テストのOfficial Score Certificate(公式認定証)、又はIPテストのScore Reportのスコアシートのオリジナルを選抜試験当日に必ず持参して下さい。有効期限内のスコアシートを複数有する場合は、点数の高いものを一つだけ提出してください。持参できない場合、入試を受験できませんので十分ご注意下さい。

諸注意

TOEICテストは実施日・実施会場が限られています。申し込みからテスト結果を受け取るまで約2〜3ヶ月かかりますので、5年一貫制大学院受験を検討されている方は早めに受験しておくようにしてください。 TOEICテストの実施日・実施会場は以下のTOEIC公式サイトを参照してください。

問い合わせ先

生理学研究所 西田 基宏(TEL: 0564-59-5560) e-mail:nishida@nips.ac.jp

2015年度 第1回 生理学研究所 大学院説明会

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2015年度 第1回 生理学研究所 大学院説明会 参加登録開始しました。

詳しくはこちらをご覧ください。

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