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手の把握動作に関わる新たな神経機構を発見

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ポイント

・手先で物を扱う運動(把握動作)に関わる脊髄神経の細胞活動の記録に成功
・脊髄の神経細胞が脳からのさまざまな運動命令を集めて、筋肉に伝えていることが判明
・運動障害時の新たなリハビリ法開発につながる可能性が期待

 JST 課題達成型基礎研究の一環として、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部の武井 智彦 室長と関 和彦 部長らの研究グループは、手先で器用に物を扱う運動(把握動作)の際に活動する新たな神経機構を世界で初めて明らかにしました。
これまで「ものをつまむ」ような器用な運動では、大脳皮質が直接手指の運動ニューロンを活動させて運動を制御していると考えられていました。しかし、大脳皮質の機能が成熟していない乳児でも反射的に手で物をつかむことができることから、研究グループは把握動作の神経機構が大脳皮質以外の部位、特に脊髄に存在するのではないかと考えました。
そこで本研究グループは、把握動作を行なっているサルの脊髄から神経活動を記録したところ、運動の開始時や運動の継続時に活動する神経細胞が多数見つかりました。この結果は、脊髄神経細胞が大脳皮質からの運動司令を統合して、筋活動へと変換している可能性を示唆する結果でした。
今回の研究成果は、大脳皮質のみと思われていた把握動作の中枢が実は脊髄にも存在することを示したものです。そのため、この脊髄中枢を刺激することによって、脳梗塞などで大脳皮質に損傷をもつ患者の把握動作を再建することができるようになるかも知れません。今回発見された脊髄の機能を有効に活用することで、今後新たなリハビリ法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2013年5月15日(米国東部時間)発行の米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience」に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域:「脳情報の解読と制御」
(研究総括:川人 光男 (株)国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所/脳情報研究所 所長/ATR フェロー)

研究課題名:「感覚帰還信号が内包する運動指令成分の抽出と利用」
研 究 者:関 和彦(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発部 部長/元 自然科学研究機構 生理学研究所 助教)

研究実施場所:国立精神・神経医療センター 神経研究所
研究期間:平成21年10月~平成27年3月

JSTはこの領域で、運動や判断を行っている際の脳内情報を解読し、外部機器や身体補助具などを制御するブレイン・マシンインターフェイス(BMI)を開発し、障害などにより制限されている人間の身体機能を回復するための従来にない革新的な要素技術の創出に貢献する研究を支援しています。
上記研究課題では、運動することに生ずる感覚が、自分の脊髄の神経回路に戻ることにより、筋肉が駆動されるメカニズムを研究史、外部から感覚帰還信号を強化することによって脳損傷の運動制御を支援し、リハビリテーションを促進する方法を開発する基礎を築くための研究を行っています。
 

研究の背景と経緯

「ものをつまむ」などの手の細かな動作は、ヒトやサルなど一部の高度に進化した動物のみが行うことができる特殊な動作です。そしてヒトやサルの脳では、脳の中でも特に大脳皮質が大きく発達しています。そのため、「把握動作は大脳皮質によって制御されている」と考えられてきました。しかし、大脳皮質の機能が成熟していない乳児でも把握動作を行うことができます。例えば、生まれたての乳児の手のひらに棒を触れると乳児は反射的に手を握ることが知られています(把握反射)。このことから、本研究グループは「大脳皮質以外に把握動作をコントロールしている部分があるはずだ」と予想しました。
本研究グループは、これまでの研究からサルの脊髄に存在する神経細胞(前運動性介在ニューロン)注1)が把握動作に関わる筋活動を引き起こしていることを発見しました。しかし、把握動作の際にこのようなニューロンがどのように活動するのかは明らかではありませんでした。そのため、これらのニューロンが把握動作にどのように役立っているのか分かっていませんでした(図1)。

研究の内容

 研究グループは、把握動作中のサルの脊髄から前運動介在ニューロンの活動を記録することで、これらのニューロンが把握動作時にどのように活動するのかを世界で初めて調べることに成功しました。すると、これらのニューロンには、運動の開始時だけに活動するもの(P型)、運動を継続している際に活動するもの(T型)、またそのどちらでも活動するもの(P+T型)が存在することが分かりました(図2A)。さらに、その割合をみてみると多くのニューロンがP+T型を示していることが明らかになりました(図2B)。これは、驚くべき結果でした。なぜなら、大脳皮質のニューロンでは、運動開始(P型)か運動継続(T型)のみで活動するものが大半でした(図2C[参考論文1])。むしろ、このようなP+T型は、手先の筋肉の活動とよく似た特徴でした。そのため、前運動介在ニューロンは大脳皮質からの運動司令(P型やT型)を統合して、最終的な筋活動を作り出している可能性が示されました。この結果から、脊髄介在ニューロンは大脳皮質からの情報を筋肉へと単純に「リレー」しているだけではなく、情報の統合や処理を行なっていると考えられます。

今後の展開

 今後は、このような神経機構を積極的に利用したリハビリテーション法の開発などへ研究が進展する可能性があります。例えば脊髄損傷を患った場合、大脳皮質から脊髄への連絡経路が絶たれることにより手足のまひが生じます。このような四肢まひの患者に「取り戻したい機能」についてアンケート調査した結果、その第1位に挙げられたのが「手の運動機能」だったという報告があります[参考論文2]。それにもかかわらず、従来は大脳皮質が手の運動に関わる処理を全て行っていると考えられていたため、脊髄損傷後の手先の運動の再建は難しいと考えられてきました。しかし、本研究によって脊髄内の神経機構が運動に必要な情報処理を行なっていると考えられ、受傷直後はこの脊髄内神経機構は正常である可能性があります。そのため、この残された神経機構を外部刺激や感覚刺激によって有効に活性化させることで、より効果的かつ生体に近い形で手先の運動の再建ができるようになる可能性があります。本研究の成果は、今後の新たな治療法開発へとつながると期待されます。

参考図

press20130515SEKI-1.jpg

図1 把握動作における脊髄介在ニューロン機能の仮説
脊髄前運動性介在ニューロンが大脳皮質のからの運動司令を筋肉へと伝える際に、P型およびT型の活動を別々にリレーしている可能性(仮説1)と、両者を統合して筋肉に伝えている可能性があった(仮説2)。

press20130515SEKI-2.jpg

図2 把握動作中の前運動性介在ニューロンの活動パターン
(A)前運動性介在ニューロンには、P型、T型およびP+T型が存在することが明らかとなった。
(B)P+T型を示すニューロンの割合が、P型、T型に比べて大きいことが分かった。
(C)一方、大脳皮質ではP+Tの割合がより少ないことが知られていた[参考論文1]。

<用語解説>
注1)脊髄前運動性介在ニューロン
脊髄に存在し運動ニューロンに対して興奮性もしくは抑制性の効果を及ぼすニューロンのこと。運動出力に直結した機能を持つと考えられている。

参考文献

[1]Anderson KD (2004) “Targeting recovery: Priorities of the spinal cord- injured population” J Neurotrauma 21:1371-1383.
[2]Smith AM, Hepp-Reymond MC, Wyss UR (1975) “Relation of activity in precentral cortical neurons to force and rate of force change during isometric contractions of finger muscles” Exp Brain Res 23(3):315-32.

論文タイトル

“Spinal premotor interneurons mediate dynamic and static motor commands for precision grip in monkeys”
(脊髄前運動性介在ニューロンは把握運動時の動的および静的運動司令を伝達する)

お問い合わせ先

<研究に関すること>
武井 智彦(タケイ トモヒコ)、関 和彦(セキ カズヒコ)
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部
〒187-8502 東京都小平市小川東町4-1-1
Tel:042-346-1724 Fax:042-346-1754
E-mail:seki@ncnp.go.jp

<JSTの事業に関すること>
川口 貴史(カワグチ タカフミ)、木村 文治(キムラ フミハル)、稲田 栄顕(イナダ ヒデアキ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーション・グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:presto@jst.go.jp

<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkoho@jst.go.jp

国立精神・神経医療研究センター 広報係 今井
Tel:042-341-2711 Fax:042-344-6745
E-mail:mimai@ncnp.go.jp

自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 
准教授 小泉 周(コイズミ アマネ)
Tel:0564-55-7722 Fax:0564-55-7721
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp

 


第24回(2013年) 生理科学実験技術トレーニングコース 募集開始

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毎年恒例の生理研・実験技術トレーニングコース参加申込を受け付けています。
受付期間は、5/27(月)12:00~6/26(水)12:00 です。
申し込みは以下のHPよりお願いいたします。

http://www.nips.ac.jp/training/2013/
 

大学院生室を開設しました。

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平成25年6月3日
                                                                                                                      

生理学研究所総研大生の皆様  

総研大脳科学特別委員会委員長  富永真琴


大学院生室開設のご案内
                                                                                        

 この度 生理学研究所耐震工事終了に伴い、大学院生室をあらたに開設したことをご案内します。場所は明大寺生理研2階231号室「非常口横」で「脳科学専攻間融合プログラム事務局」が併設されており、事務員が8:30-15:30で常駐していますが、以外の時間も開錠されていますので、利用できます。収容人数は6名です。


・テーブル(大)1 + 椅子6
・作業机3 + 椅子3 
・作業用パソコン3 (インターネット使用可)

主な設置目的をE-learning教材作成としていますが、もちろん自習室や研究会室として
使用できます。貸切にしたい場合は、会議室予約システム(会議室予約2)
http://www.nips.ac.jp/cgi-bin/resroom/resroom2.cgi
より予約を行ったうえ、下記大学院生室まで詳細「 使用目的、人数 」をメールにて連絡ください。またご質問等があれば、いつでも電話またはメールにて連絡ください。

6月3日(月)より使用できます。お気軽にご活用ください。

宛先: kkumi@nips.ac.jp
******************************************************
自然科学研究機構 生理学研究所
2F 大学院生室 (231号室)
TEL 0564-55-7720 FAX 0564-55-7720
脳科学専攻間融合プログラム:http://sbsjp.nips.ac.jp/
事務支援員 児玉久美子 (月-金 8:30-15:30)
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ひらめき☆ときめきサイエンス脳や体を動かす電気信号でロボットアームを動かしてみよう!Ⅱ 高校生募集開始!

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生理学研究所・広報展開推進室では、日本学術振興会と共催で、ひらめき☆ときめきサインエンスの高校生体験学習会を開催します。
ヒトの脳や体は電気信号で動いていますが、この電気信号はとっても小さいので普段は感じることはできません。
そこで簡易筋電位計測装置「マッスルセンサー」を使用してこの電気信号を感知して、ロボットアームを動かしてみましょう。

※参加費無料。使用したマッスルセンサーは参加各校1台お持ち帰りいただけます。

脳や体を動かす電気信号でロボットアームを動かしてみよう!

 

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日時: 8月26日 月曜日 11:00~17:00  受付開始:10:30
会場: 自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター
対象: 高校生20グループ(参加校1校で1人の、理科教員の引率をお願いします)
オンライン申し込み:http://www.nips.ac.jp/public/hiratoki
お申込み締め切り:7月5日(金)17:00まで
 

第二回 自然科学研究機構若手研究者賞を、木下 正治 准教授(弘前大学)が受賞

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自然科学研究機構では、エイベックス・エンタテインメント株式会社から、天皇陛下御即位20周年を祝う奉祝曲「太陽の国」(歌唱:EXILE)の収益の一部についてご寄附頂いたことを受け、新しい自然科学分野の創成に熱心に取り組み、成果をあげた優秀な若手研究者を表彰することを目的として「自然科学研究機構若手研究者賞」を創設しました。

今回、第二回の若手研究者賞を、元生理学研究所の木下 正治 准教授(弘前大学)が受賞しました。
授賞式と記念講演が6月16日に日本科学未来館のみらいCANホールにて行われます。

授賞式・記念講演会
タイトル:

「宇宙・生命・脳・物質・エネルギー」若手研究者による Rising SunⅡ
―自然科学研究機構若手研究者賞記念講演―

日時: 2013年6月16日(日)13:00~17:20

場所: 日本科学未来館 7階 みらいCANホール

詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.nins.jp/public_information/02risingsun.php

 

2013年度 第2回 生理学研究所 大学院説明会 (8月3日) の参加登録開始

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2013年度 第2回 生理学研究所 大学院説明会 (8月3日) の参加登録開始

詳しくはこちらから。

神経と神経の"つなぎ目"(シナプス)の「数」と「サイズ」は、どのように決まっているの? ―神経細胞シナプスにおける脂質修飾酵素DHHC2の役割を解明―

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内容

脳の中で信号を伝える役割をしている神経細胞は、神経細胞と神経細胞の間にシナプスと呼ばれる“つなぎ目”をつくり複雑な神経回路を作っています。シナプス一つ一つの大きさは1ミクロン(マイクロメートル)ほどですが、神経細胞1個あたり1万個にも及ぶシナプスがあり、それが神経細胞内の正しい「場所」で、一定範囲の「数」と「サイズ」で一生涯維持されます。一方、 それら“つなぎ目”(シナプス)の数、サイズ、伝達効率は、経験や刺激の種類に応じて柔軟に変化することも知られています。こうしたシナプスの“精緻性”と“柔軟性”は、脳の発達や高次機能に不可欠であり、そのバランスの破綻が様々な神経系疾患の発症につながります。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の深田正紀教授ならびに深田優子准教授の研究グループは、最先端の顕微鏡と新たに開発した蛍光プローブを用いて、生きた神経細胞のシナプスがダイナミックに変化する様子を直接‘視る’ことに成功しました。これによって、シナプスがさらに小さなナノサイズの構造単位(ナノドメイン)が集まってできていることを発見し、脂質修飾酵素DHHC2がその数とサイズを制御していることを明らかにしました。本研究成果は米国の細胞生物学誌(Journal of Cell Biology)に掲載されます(2013年7月8日号)。

研究グループは、脂質修飾酵素DHHC2に注目。この脂質修飾酵素は、神経細胞の中でもシナプスが存在する樹状突起と呼ばれる突起に多く存在しています。この酵素はシナプスの土台となるタンパク質(PSD-95と呼ばれるタンパク質)に脂質(パルミチン酸という脂肪酸の一つ)をくっつけ(脂質修飾)、シナプスの位置を決めます。研究グループは、この酵素によって脂質修飾されたPSD-95を生きた細胞で’視る’ことができるプローブを開発し、最先端の特殊な蛍光顕微鏡(STED超解像顕微鏡)で観察しました。すると、1つ1つのシナプスは、脂質修飾されたPSD-95 からなる更に小さなナノサイズの構造単位(ナノドメイン)が集まってできていることを発見しました。また、シナプスの「数」や「サイズ」は、シナプスに存在するDHHC2の働きによって維持されていることを明らかにしました。さらに、DHHC2は神経の活動に応じてダイナミックにシナプスの「サイズ」を変化させることを明らかにしました。

深田教授は「今回見出した脂質修飾酵素DHHC2は、シナプスを正常に維持することで、脳の働きの原動力となっていると考えられます。今後は、記憶や学習などにおけるDHHC2の役割を明らかにするとともに、DHHC2の機能異常と精神発達遅滞や認知症など脳病態との関連を明らかにすることが必要であると考えます。DHHC2の酵素活性を修飾する薬剤は、脳疾患の魅力的なターゲットとなるかもしれません。」と話しています。

本研究は、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSPO) (H18-21) (研究代表者深田正紀)による支援の下に、仏国キュリー研究所のフランク・ペレス博士らとの国際共同研究として開始しました。その後、本研究は、最先端・次世代研究開発プログラム(内閣府) (H22-25)(研究代表者深田正紀)による支援を受けて行われました。

今回の発見

1.超解像顕微鏡(STED顕微鏡)と新たに開発した蛍光プローブを用いることにより、これまで知られていなかったシナプスの中のナノサイズのサブドメインを発見しました。
2.脂質修飾酵素DHHC2によって、シナプスが正しい「数」と「サイズ」で維持、再構築されるメカニズムを解明しました。

図1 神経と神経の“つなぎ目”、シナプスとは?

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神経と神経の“つなぎ目”であるシナプス。シナプスは、2つの神経細胞(シナプス前部とシナプス後部と書いてある神経細胞)のつなぎ目です。大きさが、約1ミクロン(マイクロメートル)ほどで、髪の毛の太さの100分の1ほどの小さな小さな突起が互いに結合しています。その体積は、1ミリリットルのおおよそ1兆分の1となります。
また、シナプス後部には、シナプス・タンパク質であるPSD-95が土台として存在しています。
このような極めて微小な部分で起きている化学反応は、試験管を用いるような通常の方法で調べることはできません。そこで、その中で起きているダイナミックな変化をのぞくために、最先端の蛍光顕微鏡技術が活躍しています。

図2 1つの神経細胞は1万にも及ぶ“シナプス”で他の神経細胞と“つなぎ目”をつくり情報交換を行っている

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星の数ほどある小さなシナプス(赤い点、直径1マイクロメートル未満)は、一定の範囲でサイズと数が維持されている。いったいどのようにしてシナプスができる場所と数、サイズが決まるのだろう。神経細胞の核(遺伝子情報が貯蔵されている場所、直径10マイクロメートル程度)を青色で示した。左下に拡大図を示した(矢印がひとつひとつのシナプスを示す)。

図3 シナプスを超解像度で観察することに成功し、ナノドメインに分かれていることを発見

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今回、新たに脂質修飾(パルミトイル化)されたシナプス・タンパク質(PSD-95)だけを検出する蛍光プローブを開発し、生きた神経細胞のシナプスを可視化することに成功しました。また、超解像STED顕微鏡(右)を用いることで、従来の共焦点顕微鏡(左)ではひとつのかたまりにしか見えなかったシナプスが、実はナノ単位の幾つかの構造(ナノドメイン)の集まりであることが分かりました。また、一つのナノドメインは平均の直径が約200 ナノメートルであることが分かりました。シナプスは1から4あるいはそれ以上のナノドメインが集まってできていました。

図4 脂質修飾酵素DHHC2の働きによって、シナプスの「数」と「サイズ」が決まっていることを発見

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シナプス・タンパク質PSD-95を脂質修飾(パルミトイル化)する酵素のうち、シナプスに存在するDHHC2が機能しないとナノドメインが作られず、しいてはシナプスの「サイズ」や「数」が減少することがわかりました。

<参考> 超解像顕微鏡 (STED顕微鏡)
STED顕微鏡は、青色の励起光にあわせて、STEDビームとよばれるドーナツ状の長波長の光をあてることにより、中心のごく一部の蛍光を解像度高くとらえる最先端の顕微鏡技術です。
従来の共焦点顕微鏡で撮影した画像に比べるとSTEDによる画像はより高い空間分解能(理論的には80 ナノメートル)を有し、これまで見逃されていた微細構造や動態をより正確に解析することが可能となってきました。

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この研究の社会的意義

DHHC2の機能異常と精神発達遅滞や認知症など脳病態との関連も

脂質修飾酵素DHHC2によって、神経と神経の“つなぎ目”(シナプス)の数とサイズが精緻にダイナミックに調節されていることがわかったことから、この酵素が正常に機能することが、脳の高次機能に不可欠であると考えられます。今後は、記憶や学習などにおけるDHHC2の役割を明らかにするとともに、DHHC2の機能異常と精神発達遅滞や認知症など脳病態との関連も調べます。DHHC2の酵素活性を修飾する薬剤は、脳疾患の魅力的なターゲットとなるかもしれません。

論文情報

Local palmitoylation cycles define activity-regulated postsynaptic subdomains
Yuko Fukata, Ariane Dimitrov, Gaelle Boncompain, Ole Vielemeyer, Franck Perez, and Masaki Fukata
米国の細胞生物学誌(Journal of Cell Biology)2013年7月8日発行

お問い合わせ先

<研究に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 生体膜研究部門 教授
深田 正紀(フカタ マサキ)
〒444-8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5-1
Tel:0564-59-5873 Fax:0564-59-5870
E-mail:mfukata@nips.ac.jp

自然科学研究機構 生理学研究所 生体膜研究部門 准教授
深田 優子(フカタ ユウコ)
〒444-8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山5-1
Tel:0564-59-5873 Fax:0564-59-5870
E-mail: yfukata@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL:0564-55-7723 FAX:0564-55-7721 
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp




 

みらいの科学者大集合14   見えない真実をみる 顕微鏡がひらく生物の世界 ―レーウェンフック顕微鏡でミクロの世界を見てみよう!―

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内容

 生理学研究所は、岡崎市保健所とタイアップのもと、7月20日に岡崎げんき館にて恒例の「第27回せいりけん市民講座」を開催いたします。
 今回は、夏休み中ということで、永山 國昭 特任教授(生理学研究所)による子供向け(小学生以上&ご家族等)の体験教室&講演会を開催します。歴史上はじめて顕微鏡を使って微生物の観察をおこなったレーウェンフックの顕微鏡の復刻版や、最新の実体顕微鏡を使い、実際にミドリムシや花粉、毛髪などを観察してみます。講演会は、永山教授が開発した最先端の位相差電子顕微鏡についての講演です。


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レーウェンフック顕微鏡(復刻版)


 

 

 

 

  ・タイトル
 見えない真実をみる 顕微鏡がひらく生物の世界
-レーウェンフック顕微鏡でミクロの世界を見てみよう!-
・場所 岡崎げんき館
・日時 7月20日(土曜日) 13:30~15:00
参加自由、無料。先着200名まで。
 

お問い合わせ先

自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
小泉 周 (コイズミ アマネ)准教授
永田 治 (ナガタ オサム)技術係長
TEL:0564-55-7722 FAX:0564-55-7721 
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp


日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」開催について(8月26日 開催)

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内容

脳や体を動かす電気信号でロボットアームを動かしてみよう!II

人の脳や体はどうやって働いているのでしょうか? じつは電気信号で働いています。電線の役割をする神経を電気信号が伝わり、脳や体が働きます。
 でも、この信号はとても小さくて普段は感じることができません。そこで、簡単に人体で働く電気信号を取り出すことができる生体電気測定回路”マッスルセンサー”を使用して体験してみます。

毎年恒例のこの企画ですが、今年は、愛知県下の高校9校の高校生23名に参加していただきます(すでに募集は閉め切っています)。

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(昨年開催時の写真)
http://www.nips.ac.jp/public/hiratoki/

 

開催日:平成25年8月26日(月) 11:00 ―17:00
会 場:自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター(愛知県岡崎市)
主 催:自然科学研究機構 生理学研究所 情報処理・発信センター 広報展開推進室
共 催:日本学術振興会
協 力:愛知県立岡崎高等学校

文部科学省"情報ひろば"における常設展示について (8月~11月)

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内容

文部科学省「情報ひろば」にて「脳神経科学の現在と未来」の展示

自然科学研究機構 生理学研究所は、平成25 年8 月1 日(木)~11月末(予定)まで、文部科学省 情報ひろば「科学技術・学術展示室」(東京都千代田区、旧文部省庁舎3 階)で、生理学研究所で行われている最先端の脳科学研究や研究に用いられている技術を紹介する「脳神経科学の現在と未来」についてパネルおよびデモ機器を用いた展示を行います。

■テーマ: 脳神経科学の現在と未来 -研究を支える様々な技術-

■展示期間
平成25 年8 月1 日(木)~11月末(予定) ※開館は午前10 時~午後6 時

■展示場所
文部科学省 情報ひろば「科学技術・学術展示室」
(東京都千代田区霞が関3-2-2 旧文部省庁舎3 階)
※文部科学省情報ひろばについては、下記の文部科学省Web サイトを御参照ください。
http://www.mext.go.jp/joho-hiroba/index.htm

■企画展示の概要:
脳は、人類にとって最後のフロンティアであり、多くの研究者が脳の仕組みや働きを知る挑戦をしています。この未知なる脳を研究するために、様々な技術を総動員して、「脳の働きを可視化する」努力が行われています。また、脳神経科学が扱う領域は非常に広がってきており、分子から神経細胞、そして、脳そのもの、あるいは、人の社会的行動における脳の相互作用に至るまでが研究対象となっています。そうした様々なレベルを統合的に扱う古くて新しい脳研究の技術が求められています。本企画は、文部科学省の大学共同利用機関である生理学研究所の共同利用研究を通じて行われている脳神経科学研究を中心に、現代の脳神経科学を支える「脳の働きを可視化する」様々な技術を、分子から脳、社会脳に至るまで階層的に御紹介します。特に、蛍光物質とそれを用いた研究手法を、ポスター展示と実物展示で御紹介します。

■展示内容
<ポスター展示>
・分子から神経細胞、そして、脳そのもの、あるいは、人の社会的行動における脳の相互作用に至るまで、「脳を可視化する」技術を紹介するポスター
・蛍光物質を用いた研究手法を紹介するポスター(蛍光顕微鏡の仕組みなど)
<実物展示>
・蛍光顕微鏡による蛍光物質で光らせた脳標本の観察
ノーベル化学賞受賞“緑色蛍光タンパク質(GFP)”などの蛍光物質で光らせた脳標本(マウス)を、蛍光顕微鏡を用いてのぞいていただきます。

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・蛍光顕微鏡の仕組みを示す展示物
 蛍光顕微鏡の基礎となる色(波長)により蛍光を励起光から分離する技術(ダイクロイックミラーの仕組み)について、その仕組みを紹介するデモンストレーション機器を操作していただきます。

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■内容に関して連絡先
自然科学研究機構生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL:0564-55-7723 FAX:0564-55-7721
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp

痒みを想像しただけで痒くなる!その脳内メカニズムの一端を解明

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内容

他人の痒みを見たり、痒みを想像したりすると、痒くなったり、体を掻いてしまったりします。このような現象は以前から知られていました。しかしながら、その脳内メカニズムはわかっていませんでした。今回、自然科学研究機構生理学研究所の望月秀紀特任助教、柿木隆介教授は、ハイデルベルグ大学と共同で、痒みを見たり想像したりすると、島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強化され、それが原因で掻きたくなるという現象が起こる可能性を明らかにしました。本研究成果は学術専門誌PAINの10月号に掲載されます(6月12日早期電子版掲載)。本研究は、アレキサンダー・フォン・フンボルト財団の支援をうけて行われました。

研究グループは、痒みを想像させる写真を見せたときの脳の活動を、磁気共鳴断層画像装置(fMRI)を使って調べました。その結果、痒みを想像できる画像を見たときには、情動をつかさどる島皮質(とうひしつ)と呼ばれる部位の活動と、運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の活動の間で相関性が高まることを明らかにしました。すなわち、島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強化され、それが原因で掻きたくなると考えられます。

望月助教は、「抑えられないほどの掻きたいという欲求の際には、今回発見した島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強くなっているものと考えられます。もしこのつながりを上手にコントロールできれば、アトピー性皮膚炎などで問題となっている制御困難な掻破欲求・掻破行為を制御する新たな治療法開発につながることが期待されます」と話しています。

今回の発見

1.痒みを想像しただけで痒くなるときの脳の働きをfMRIを使って調べました。
2.痒みを想像すると、情動をつかさどる島皮質(とうひしつ)と運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の間で、機能的なつながりが強化されることを明らかにしました。

図1 痒みの画像をみただけで痒みが想像され、痒くなる

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痒みを想像できる画像(画像元:有限会社モストップ)を見せたときの脳の反応をfMRIを使って調べました。

図2 島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強化される

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他人の痒みを見たり、痒みを想像したりすると、情動をつかさどる島皮質と、運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の活動が高まり、機能的なつながりが強くなることがわかりました。このつながりは、掻破欲求や掻破行為の誘発に関係する可能性があります。

この研究の社会的意義

抑えきれない掻破欲求や掻破行為の脳内メカニズム
今回の成果から、痒みの画像をみたり想像するだけで、情動をつかさどる島皮質と、運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の活動が高まり、機能的なつながりが強くなることがわかりました。もしこのつながりを上手にコントロールできれば、アトピー性皮膚炎などで問題となっている制御困難な掻破欲求・掻破行為を制御する新たな治療法開発につながることが期待されます。

論文情報

Cortico-subcortical activation patterns for itch and pain imagery.
Mochizuki H, Baumgärtner U, Kamping S, Ruttorf M, Schad LR, Flor H, Kakigi R, Treede RD.
Pain. 2013 Jun 12. pii: S0304-3959(13)00312-6. doi: 10.1016/j.pain.2013.06.007. [Epub ahead of print]
学術誌PAIN 10月号掲載(早期電子版2013年6月12日掲載)

お問い合わせ先

<研究に関すること> 
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚運動調節研究部門
柿木 隆介 教授
Email: kakigi@nips.ac.jp
電話:0564-55-7756(秘書室)

望月 秀紀 特任助教
Email: motiz@nips.ac.jp
電話:0564-55-7753(居室)

*基本的には秘書室あるいは居室に電話をいただきたいと思います。

<広報に関すること>
自然科学研究機構生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL:0564-55-7723 FAX:0564-55-7721 
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp




 

「研究者による科学コミュニケーション活動に関するアンケート調査報告書」の発表について(JST発表)

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生理学研究所・広報展開推進室 小泉周准教授による調査報告がリリースされました。
小泉准教授の投稿記事がNature誌(Correspondence欄、2013年8月2日号)に掲載されました。
 

「研究者による科学コミュニケーション活動に関するアンケート調査報告書」の発表について
http://www.jst.go.jp/pr/info/info970/index.html

「名古屋大学大学院医学系研究科と自然科学研究機構生理学研究所との 連携・協力の推進に関する基本協定書」調印について

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平素から名古屋大学および自然科学研究機構生理学研究所の広報活動にご支援、ご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。

 さてこの度、名古屋大学大学院医学系研究科と自然科学研究機構生理学研究所は双方の研究と人材の相互交流を促進し、連携を強化するため協定を締結することとなりました。両機関は特に、基礎医学・臨床医学における脳・神経科学分野の研究で卓越した成果をあげています。さらに加えて、名古屋大学大学院医学系研究科では、がん、循環器疾患などで世界レベルの研究を展開しています。両機関の連携を強化することにより、今後さらに最先端の研究および人材育成において飛躍をめざしていきます。

 本協定により①共同研究等の研究協力、②研究者・学生及び関連職員の交流、③人材育成、④研究施設・設備の相互利用および⑤研究資源の相互利用について連携・協力を推進します。

 

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調印式出席者
名古屋大学大学院医学系研究科
髙橋 雅英 研究科長(写真左)、祖父江 元 教授、宮田 卓樹 教授 

自然科学研究機構生理学研究所
井本 敬二 所長(写真右)、伊佐 正 研究総主幹、池中 一裕 教授
 

神経細胞の特性を明らかにするためのトランスジェニックゼブラフィッシュ群

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概要

 神経細胞は多くの異なる種類の細胞種が存在している。それらが複雑な神経回路網を作ることで外界の刺激を受容したり、多様な運動パターンが作られたりしている。これらの異なる神経細胞は、それぞれ異なる働きをしているため、細胞種を同定し、解析を行うことが非常に重要である。近年、モデル動物においては、様々な細胞種を蛍光タンパク質で可視化したトランスジェニックラインが作製されており、目的に応じて、これらのラインを利用することで、簡便に目的の細胞の同定や解析を行うことが可能になっている。特に、ゼブラフィッシュは体が透明であるため、生きたまま、蛍光タンパクを観察する事が可能であり、各神経細胞を可視化したラインは、様々な研究においてきわめて有用である。

 今回、自然科学研究機構生理学研究所の佐藤千恵研究員、東島眞一准教授らは、様々な脊髄介在神経を可視化するトランスジェニックラインを作製した。作製したライン群は2つのシリーズに分けられる。1つめのシリーズは、神経細胞の神経伝達物質特性と密接にリンクするトランスジェニックフィッシュである。神経伝達物質特性は、神経細胞の個性に非常に重要であり、得られたライン群は、汎用性が非常に高い。2つめのシリーズは、背腹軸の発生起源に関わる遺伝子に関するトランスジェニックフィッシュである。脊椎動物の脊髄においては、発生期に背腹軸に沿って、転写因子がドメイン状に発現し、各ドメインから異なる神経細胞が誕生することが知られている。この発現は進化的に保存されていると考えられており、さらに、各ドメインから誕生する神経細胞もその、神経伝達物質特性や形態的特徴が共通する。各ドメインを可視化するラインを作製することで、それぞれのドメインからいかなるタイプの神経細胞が生じるかを生きたまま観察することが可能となる。

 今回、神経伝達物質に関して蛍光タンパク質や転写活性化因子Gal4を発現するトランスジェニックフィッシュを7種類、背腹軸のドメイン構造に関連するトランスジェニックフィッシュ11種類の、合計18種類のトランスジェニックフィッシュラインを作製した。図1に、いくつかのトランスジェニックフィッシュの例を示す。我々は、これらのトランスジェニックを用いて、まず、背側脊髄神経のドメイン構造がゼブラフィッシュにおいて保存されていることを明らかにした(図2)。また、さらに、それぞれのドメインから誕生する神経細胞の神経伝達物質を明らかにした。神経伝達物質に関わるトランスジェニックフィッシュ、および、脊髄の背腹軸のドメイン構造を可視化したラインの双方とも、脊髄だけでなく、脳などにも発現が見られるため、今後、広く、様々な研究で活用されることが期待される。

論文情報

本研究成果は、科学誌Developmentに発表された。
http://dev.biologists.org/content/early/2013/08/14/dev.099531.long
Satou, C., Kimura, Y., Hirata, H., Suster, M.L, Kawakami, K., and Higashijima, S. (2013). "Transgenic tools to characterize neuronal properties of discrete populations of zebrafish neurons." Development 140, 3927-3931.

図1 本研究で作製したさまざまなトランスジェニックフィッシュ

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図2 ゼブラフィッシュ脊髄の背腹軸のドメイン構造。トランスジェニックフィッシュの系タンパク質の発現から作成した合成図

 

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炎症時の痛みに「ワサビ受容体」が関わる仕組みを明らかに ― 炎症性疼痛や神経障害性疼痛の発生にワサビ受容体のスプライスバリアントが関与する

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内容

 痛み刺激を感知するセンサーの1つにワサビの辛みを感知するワサビ受容体があります。ワサビ受容体は全身の皮膚の神経にもあり痛みセンサーとして働いていることが知られていますが、炎症時の痛みや神経障害後に起こる痛みにワサビ受容体がどのように関わるかは明らかではありませんでした。今回、自然科学研究機構 生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)の周一鳴研究員と富永真琴教授は、マウスのワサビ受容体であるTRPA1(トリップ・エーワン)にスプライスバリアント(一つの遺伝子から複数種類のタンパク質が作られる仕組みによって生成される構造の異なるタンパク質)が存在し、その構造の異なるTRPA1スプライスバリアントが炎症時や神経障害後に増えることによって痛み増強につながることを明らかにしました。本研究結果は、Nature誌の姉妹誌であるネーチャー・コミュニケーションズ(9月6日電子版)に掲載されます。
 

研究グループは、マウス感覚神経のTRPA1というイオンチャネルに注目して、普通のTRPA1タンパク質より30アミノ酸だけ小さいスプライスバリアントが存在することを見つけました。普通のTRPA1をTRPA1a、スプライスバリアントをTRPA1bと名づけました。TRPA1 DNAからの転写過程においてTRPA1a mRNA(エムアールエヌエー)とTRPA1b mRNAができて、それぞれが翻訳されて2つのTRPA1タンパク質が生成されるのです。細胞の中でTRPA1aとTRPA1bが結合することによって、細胞膜にTRPA1a/TRPA1b複合体量が増えることがわかりました。

さらに、今回発見したTRPA1a/TRPA1b複合体の働きを調べるために、活性化メカニズムの異なる2つのTRPA1活性化剤(AITC: ワサビの辛み成分アリルイソチオシアネートと2-APB: ツーエーピービー)によって活性化したTRPA1を介して流れるイオン電流を測定したところ、TRPA1aとTRPA1bの両方があるとより大きな電流が観察されました(図1)。TRPA1bだけでは電流は見えませんでした。さらに、炎症性疼痛モデルマウスの感覚神経で、炎症発生後にTRPA1b遺伝子(mRNA)量がどんどん増えていくことがわかりました(図2)。神経障害性疼痛(神経に障害が起こった後に、神経損傷自体は治癒しても痛みが続く状態で、慢性疼痛の一種)モデルマウスでも同様にTRPA1b遺伝子(mRNA)量が増えました。こうした炎症性疼痛モデルマウスや神経障害性疼痛モデルマウスの感覚神経ではTRPA1の応答性は増大していることから、TRPA1bの増加によってTRPA1活性が増大して痛み増強につながっていると考えられました(図3)。

富永教授は「今回の研究で、ワサビ受容体TRPA1が炎症性疼痛や神経傷害性疼痛の発生に関わる分子メカニズムが明らかになりました。スプライスバリアントが増えないようにすることが痛みの発生をおさえることから、新たな鎮痛薬開発につながるかもしれません。」と話しています。

本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

今回の発見


1.痛みセンサーとして働くワサビ受容体TRPA1に新しいスプライスバリアントが存在することが分かり、スプライスバリアントがあるとTRPA1電流が大きくなりました。
2.そのスプライスバリアントがマウスの炎症性疼痛モデルや神経傷害性疼痛モデルで増えることがわかりました。
3.スプライスバリアントはTRPA1の機能増強をもたらすことから、炎症性疼痛や神経傷害性疼痛における痛み発生にスプライスバリアントが関わっていることが示唆されました。

図1 TRPA1a とTRPA1bの複合体のTRPA1機能(電流)への効果

press20130906tominaga-1.jpg普通のワサビ受容体(TRPA1a)とTRPA1のスプライスバリアント(TRPA1b)をもった培養細胞の2種類のTRPA1活性化剤に対する反応。TRPA1bだけをもった細胞ではTRPA1の応答は見られませんでした。TRPA1aとTRPA1bの両方をもった細胞では、TRPA1aだけをもった細胞より大きな電流応答が観察されました。TRPA1aとTRPA1bの両方があることによってTRPA1機能が増強することがわかりました。これは、痛みが強くなることにつながると考えられます。

図2 炎症性疼痛モデルにおけるTRPA1b遺伝子の発現変化

press20130906tominaga-2.jpg正常マウスではTRPA1b遺伝子(mRNA)は14日まで変化しませんが、CFA(シーエフエー)という起炎物質を足底に注射した炎症性疼痛モデルマウスでは、TRPA1b mRNA量がどんどん増えていくのがわかります。神経障害性モデルでも同様の現象が認められました。

図3 TRPA1bの量と疼痛増強のモデル図

press20130906tominaga-3.jpg炎症時や神経障害時にはTRPA1bが増えて、感覚神経細胞膜上のTRPA1a/TRPA1b複合体量が増加します。そして、TRPA1の応答性が増強して大きな電流が流れることによって痛み増強につながると考えられます。

この研究の社会的意義

TRPA1のスプライスバリアントをターゲットとした新しい創薬戦略の提唱

今回の発見で、ワサビ受容体TRPA1が炎症性疼痛や神経障害性疼痛の発生にかわる仕組みが分かりました。TRPA1bと同一のものはヒトでは見つかっていませんが、同様のことがヒトでも起こっていると想定されるため、TRPA1のスプライスバリアントやその調節因子が炎症性疼痛や神経障害性疼痛の治療のための新しい創薬ターゲットになることが期待されます。
 また、病態時における選択的スプライシングの役割の解明につながることが期待されます。

論文情報

Identification of a splice variant of mouse TRPA1 that regulates TRPA1 activity. 
Yiming Zhou, Yoshiro Suzuki, Kunitoshi Uchida & Makoto Tominaga.
Nature Communications.   2013年 9月6日

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞生理研究部門
教授 富永真琴 (とみなが まこと)
Tel: 0564-59-5286   FAX: 0564-59-5285 
email: tominaga@nips.ac.jp

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL 0564-55-7722、FAX 0564-55-7721 
pub-adm@nips.ac.jp


経済産業省 Innovative Technology 2013に、西村准教授の「人工神経接続」技術が選ばれました

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経済産業省は、コンテンツ技術のさらなる活用と発展を促進することを目的とした、コンテンツ技術イノベーション促進事業の一環として、20件の優れたコンテンツ技術を「Innovative Technologies 2013」として採択しました。

その中で、西村幸男 准教授の「人工神経接続」技術が選ばれました。
http://www.dcexpo.jp/1809

全ての採択技術は10月24日から日本科学未来館にて行われる「デジタルコンテンツEXPO2013」において展示され、御来場の皆様も実際に体験していただくことができます。

参考:人工神経接続については、こちらのプレスリリースをご覧ください。
http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2013/04/post-242.html

亜鉛イオンによるTRPM5チャネル活性阻害作用

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概要

TRPM5チャネルは細胞内カルシウムイオンによって活性化される1価の陽イオンを選択的に通すチャネルであり、味細胞、膵臓および一部の脳にその発現は限局していることが知られています。TRPM5チャネルは細胞内カルシウムイオンによって活性化することで細胞膜を脱分極させ、細胞の興奮性を調節していると考えられています。現在までに有効な活性化剤および阻害剤の報告はとても少なく、TRPM5チャネル活性がどのように調節されているかにつてはあまり明らかにされていませんでした。今回、我々はTRPM5チャネルの内在性の活性調節物質の1つとして細胞外亜鉛イオンが生理的濃度の範囲でTRPM5チャネル活性を阻害することを見いだしました。TRPM5チャネルを強制発現させた培養細胞(HEK293細胞)にホールセルパッチクランプ法を適用してTRPM5チャネルの活性化電流を観察した結果、細胞内カルシウムによって認められるTRPM5チャネル電流が亜鉛イオンによって強く抑制されました(図A)。さらにTRPM5チャネルに対する亜鉛の作用部位を検討するためにTRPM5チャネルの点変異体を作製して阻害作用を比較した結果、イオンの通る穴(ポア)を形成している細胞外ドメインのヒスチジン及びグルタミン酸に作用することが明らかとなりました(図B)。
本研究より、新たにTRPM5チャネルの活性を調節する分子を見いだしました。亜鉛は生体内において鉄に次いで多く存在する必須微量元素です。亜鉛はDNA合成酵素やアルコール分解酵素など多くのタンパク質の機能の維持に重要な働きをしていることが知られています。TRPM5チャネル活性の亜鉛による活性調節はTRPM5チャネルの生理機能維持に重要な役割を担っていると考えられます。

論文情報

Kunitoshi Uchida and Makoto Tominaga.
Extracellular zinc ion regulates TRPM5 activation through its interaction with a pore loop domain.
Journal of Biological Chemistry. 288 (36), 25950-25955, 2013

図 TRPM5チャネル活性化電流に対する亜鉛イオンの阻害作用と作用部

uchida20130920-1.jpgA. TRPM5チャネルを発現させたHEK293細胞にホールセルパッチクランプ法に観察されるTRPM5チャネル活性化電流
ピペット溶液(細胞内)に500 nMのカルシウムイオンを添加し、右下の実験条件に従って膜電位を変化させると膜電位変化に依存した活性化電流がみられる(左上)。この電流は細胞外に20 μMの塩化亜鉛を投与するとほとんど観察されなくなる(右上)。塩化亜鉛を洗い流すと、部分的ではあるが活性が回復して電流がみられるようになる(左下)。

uchida20130920-2.jpgB. TRPM5チャネルの構造と亜鉛イオンの作用部位
TRPM5チャネルの1つのサブユニットは他のTRPチャネルと同様に6個の膜貫通領域(TM)を持ち、N末端及びC末端ともに細胞内に位置している。膜貫通領域の5番目と6番目の間にイオンの通る穴(ポア)を形成する大きなループがある。亜鉛イオンはこのループ内の1つのヒスチジン(H896)及び2つのグルタミン酸(E926、E939)に作用することで、TRPM5チャネル活性を阻害する。
 



 

第44回 生理研国際シンポジウム(5th Asian Pain Symposium)

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開催日程:2013年12月18日(水)~20日(金)

場所:岡崎カンファレンスセンター

詳しくはこちらをご覧ください。

The 3rd NIPS-CIN Joint Neuroscience Symposium開催のお知らせ

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The 3rd NIPS-CIN Joint Neuroscience Symposiumのお知らせ

日時:10月10日(木)~11日(金)

場所:生理学研究所 1F 会議室

詳しくはこちらをご覧ください。

10月15日のセミナー中止のお知らせ

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10月15日に予定していましたSchoenbaum博士(NIH)のセミナーですが、現状の米国の、国機関のシャットダウンの影響により、来日を取りやめざるを得なくなりました。
多くの方に期待していただいたところ、大変残念ではありますが、またの機会を待ちたいと思います。
 

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