内容
痒いところを掻くと快感が生じます。しかしながら、その脳内メカニズムは不明でした。今回、自然科学研究機構生理学研究所の望月秀紀特任助教授、柿木隆介教授は、掻くこと(搔破)によって生じる快感に報酬系と呼ばれる脳部位(中脳や線条体)が関係することを明らかにしました。本研究成果は米国の学術専門誌Journal of Neurophysiology(神経生理学雑誌)の1月号に掲載予定です。 |
研究グループは、実験的に手首に痒みを誘発し、その近辺を掻くことによって快感を生じさせました。そのときの脳の活動を、磁気共鳴断層画像装置(fMRI)を使って調べました。その結果、中脳や線条体といった報酬系と呼ばれる脳部位が強く反応することを世界で明らかにしました。すなわち、報酬系の活性化が掻破による快感を引き起こす原因と考えられます。これは世界で初めての発見です。
望月特任助教は、「気持ちよいからもっと掻いてしまうことがよくあります。特に、アトピー性皮膚炎患者など痒みで苦しむ人々にとっては、掻破による快感は深刻な問題です。なぜなら、過剰な掻破が皮膚を傷つけ、それが原因で痒みがさらに悪化してしまうからです。今回の発見により、快感に関係する脳部位が特定できました。この部位の活動を上手にコントロールできれば、過剰掻破を抑えることができます。そのような掻破の制御を目的とした新たな痒みの治療法開発につながることが期待されます」と話しています。
本研究は、科学研究費補助金の支援をうけて行われました。
今回の発見
1.掻破によって生じる快感について、その脳内メカニズムを調べました。
2.掻破による快感に報酬系と呼ばれる脳部位が関係することを明らかにしました。
図1 痒いところを掻いて快感が生じているときに報酬系と呼ばれる脳部位(中脳や線条体)が活動。
この研究の社会的意義
掻破による快感の脳内メカニズム
痒いところを掻きむしると皮膚が傷つきます。アトピー性皮膚炎患者にとってはそのような皮膚の損傷は痒みの悪化につながります。そのため、掻破は患者を苦しめ、痒みの治療を困難にさせる深刻な問題となります。特に、搔破によって生じる快感は掻破を増強させる悪因子のひとつです。つまり、気持ち良いからもっと掻いてしまったり、快感を求めて不必要に掻いてしまったりするようになります。したがって掻破によって生じる快感を抑えることができれば、過度の搔破も軽減されれ、その結果、皮膚のダメージが抑えられて痒みの悪化を抑止できるはずです。本研究の発見は、掻破をコントロールする新たな痒みの治療法開発につながることが期待されます。
論文情報
The cerebral representation of scratching-induced pleasantness.
Mochizuki H, Tanaka S, Morita T, Wasaka T, Sadato N, Kakigi R.
Journal of Neurophysiology. 2014 (in press)
お問い合わせ先
<研究及び広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚運動調節研究部門
教授 柿木 隆介
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<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
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