内容
他人の痒みを見たり、痒みを想像したりすると、痒くなったり、体を掻いてしまったりします。このような現象は以前から知られていました。しかしながら、その脳内メカニズムはわかっていませんでした。今回、自然科学研究機構生理学研究所の望月秀紀特任助教、柿木隆介教授は、ハイデルベルグ大学と共同で、痒みを見たり想像したりすると、島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強化され、それが原因で掻きたくなるという現象が起こる可能性を明らかにしました。本研究成果は学術専門誌PAINの10月号に掲載されます(6月12日早期電子版掲載)。本研究は、アレキサンダー・フォン・フンボルト財団の支援をうけて行われました。
研究グループは、痒みを想像させる写真を見せたときの脳の活動を、磁気共鳴断層画像装置(fMRI)を使って調べました。その結果、痒みを想像できる画像を見たときには、情動をつかさどる島皮質(とうひしつ)と呼ばれる部位の活動と、運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の活動の間で相関性が高まることを明らかにしました。すなわち、島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強化され、それが原因で掻きたくなると考えられます。
望月助教は、「抑えられないほどの掻きたいという欲求の際には、今回発見した島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強くなっているものと考えられます。もしこのつながりを上手にコントロールできれば、アトピー性皮膚炎などで問題となっている制御困難な掻破欲求・掻破行為を制御する新たな治療法開発につながることが期待されます」と話しています。
今回の発見
1.痒みを想像しただけで痒くなるときの脳の働きをfMRIを使って調べました。
2.痒みを想像すると、情動をつかさどる島皮質(とうひしつ)と運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の間で、機能的なつながりが強化されることを明らかにしました。
図1 痒みの画像をみただけで痒みが想像され、痒くなる
痒みを想像できる画像(画像元:有限会社モストップ)を見せたときの脳の反応をfMRIを使って調べました。
図2 島皮質と大脳基底核の機能的なつながりが強化される
他人の痒みを見たり、痒みを想像したりすると、情動をつかさどる島皮質と、運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の活動が高まり、機能的なつながりが強くなることがわかりました。このつながりは、掻破欲求や掻破行為の誘発に関係する可能性があります。
この研究の社会的意義
抑えきれない掻破欲求や掻破行為の脳内メカニズム
今回の成果から、痒みの画像をみたり想像するだけで、情動をつかさどる島皮質と、運動の制御や欲求をつかさどる大脳基底核の活動が高まり、機能的なつながりが強くなることがわかりました。もしこのつながりを上手にコントロールできれば、アトピー性皮膚炎などで問題となっている制御困難な掻破欲求・掻破行為を制御する新たな治療法開発につながることが期待されます。
論文情報
Cortico-subcortical activation patterns for itch and pain imagery.
Mochizuki H, Baumgärtner U, Kamping S, Ruttorf M, Schad LR, Flor H, Kakigi R, Treede RD.
Pain. 2013 Jun 12. pii: S0304-3959(13)00312-6. doi: 10.1016/j.pain.2013.06.007. [Epub ahead of print]
学術誌PAIN 10月号掲載(早期電子版2013年6月12日掲載)
お問い合わせ先
<研究に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 感覚運動調節研究部門
柿木 隆介 教授
Email: kakigi@nips.ac.jp
電話:0564-55-7756(秘書室)
望月 秀紀 特任助教
Email: motiz@nips.ac.jp
電話:0564-55-7753(居室)
*基本的には秘書室あるいは居室に電話をいただきたいと思います。
<広報に関すること>
自然科学研究機構生理学研究所 広報展開推進室 准教授
小泉 周 (コイズミ アマネ)
TEL:0564-55-7723 FAX:0564-55-7721
E-mail:pub-adm@nips.ac.jp