内容
自然科学研究機構・生理学研究所の伊佐 正(いさ ただし)教授(52)は、京都大学大学院・生命科学研究科の渡邉 大(わたなべ だい)教授(50歳)ならびに福島県立医科大学・医学部附属生体情報伝達研究所の小林 和人(こばやし かずと)教授(52歳)と共同で、平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞を受賞することとなりました。受賞式は4月16日に文部科学省にて行われます。
伊佐 正 教授
今回の受賞は、以下の受賞理由によるものです。
受賞理由:
霊長類の神経回路を選択的に制御する手法に関する研究
脳の複雑な神経回路機能を解明するには、個々の経路を選択的に操作することが必要であるが、従来マウスでは遺伝子改変動物の作製によって可能であったが、遺伝子改変動物の作製が困難で、巨大な脳を持つ霊長類では不可能だった。
本研究では、新規開発された高効率に逆行性輸送される改変レンチウィルスベクターに新規開発された増強型破傷風毒素を搭載して、狙った経路の投射先に注入し、さらに細胞体の位置に第2のウィルスベクターを注入することで、世界で初めてマカクザルにおいて経路選択的・可逆的に神経伝達の阻害に成功した。
本研究によって、霊長類の大脳運動野から手指の筋を支配する脊髄運動神経細胞につながる進化的に新しい直接経路と並行して存在する、進化的に古い間接経路を仲介する脊髄細胞を選択的に遮断し、手指の巧緻な運動が阻害されることを観察し、「間接経路」が霊長類固有に発達した巧緻運動に寄与することを示した。
本成果は、霊長類での経路選択的機能遮断法という、今後の高次脳機能研究に有力な技術を提供するとともに、本研究で明らかになった「間接経路」の機能に関する知見は脊髄損傷後の機能回復戦略の開発に寄与することが期待される。
主要論文
Kinoshita M, Matsui R, Kato S, Hasegawa T, Kasahara H, Isa K, Watakabe A, Yamamori T, Nishimura Y, Alstermark B., Watanabe D, Kobayashi K, Isa T (2012) Genetic dissection of the circuit for hand dexterity in primates. Nature 487: 235-238.
参考:研究成果について
自然科学研究機構・生理学研究所の伊佐 正教授らと福島県立医大・京都大学の共同研究チームは、新しい二種類のウイルスベクターを用いることで特定の神経回路に選択的に遺伝子を導入する方法を新たに開発しました(二重遺伝子導入法)。この手法により、進化の過程で霊長類において新しく脳からの電気信号を筋肉に伝える直接の経路ができてきた一方で、取り残されてしまったと考えられてきた“間接経路”が、実は私たち霊長類においても手指の巧みな 動きを作りだすことに重要な役割を果たしていることを発見しました。文部科学省・脳科学研究戦略推進プログラムの共同研究プロジェクトによる研究成果です。本研究成果は、英国科学誌Nature(2012年6月17日号電子版)に掲載されました。
プレスリリース(2012年6月18日):
http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2012/06/post-214.html
お問い合わせ先
<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 認知行動発達研究部門
教授 伊佐 正 (いさ ただし)
Email:tisa@nips.ac.jp
<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報展開推進室
准教授 小泉 周 (こいずみ あまね)
Tel:0564-55-7722 Fax:0564-55-7721
Email:pub-adm@nips.ac.jp