内容
自然科学研究機構生理学研究所の小泉 周(コイズミ・アマネ)准教授ならびに森藤 暁(モリトウ・サトル)博士(現・東北大学医学部)と小松 勇介(コマツ・ユウスケ)特任助教(基礎生物学研究所・モデル生物研究センター・マーモセット研究施設・研究員)の共同研究グループは、新世界ザル(マーモセット)と呼ばれるサルの目の中の神経組織である網膜には、様々な形の視神経細胞(網膜神経節細胞)があり、中でも、形態学的にモーション・ディテクターの特徴を全てもつ視神経細胞を見つけだしました。こうしたモーション・ディテクターと考えられる細胞が、霊長類網膜で発見されたのははじめて。米国科学誌プロス・ワン(PLoS One、1月15日電子版)に掲載されます。
研究グループは、世界に先駆けて、新世界ザルの網膜を、まるごと取り出し、短期培養保存する方法の確立に成功。保存した網膜への緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子導入によって、古くから知られている視神経細胞以外にも、多様な形態学的特徴をもった視神経細胞が種々あることを発見しました。中でも、ウサギやネズミといった下等な哺乳類網膜で発見されているものと同様の形態学的な特徴を全てもったモーション・ディテクターと考えられる視神経細胞(方向選択性網膜神経節細胞)を見つけだしました。
小泉准教授は、「これまで人を含む霊長類網膜はデジカメのように比較的単純なものではないかと考えられていたため、モーション・ディテクターのような特殊な機能や特徴をもつ視神経細胞は見つかっていませんでした。今回、霊長類の一種である新世界ザル網膜の周辺部位でこの細胞が見つかったことから、霊長類でも周辺視野で主として働いているのではないかと考えられます。今後、この細胞が、動きや方向をどの程度検知できるか、機能的に確認することが必要です」と話しています。
なお、新世界ザル(マーモセット)網膜の提供は、文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの支援を受けました。
本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。
今回の発見
1.新世界ザル(マーモセット)の網膜の短期培養保存法を確立し、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子導入に成功しました。
2.1によって、古くから知られている視神経細胞以外にも、多様な形態学的特徴をもった視神経細胞が種々あることを発見しました。
3.特に、ウサギやネズミといった下等な哺乳類網膜で発見されているものと同様の形態学的な特徴を全てもったモーション・ディテクターと考えられる視神経細胞(方向選択性網膜神経節細胞)を見つけだしました。
図1 新世界ザル(マーモセット)網膜の短期培養保存法の確立
霊長類の一種である新世界ザル(マーモセット)の網膜をまるごと取り出し、短期培養保存する方法を確立しました。写真のような培養装置に、取りだした網膜をおき(写真中央 矢印)、2-3日間CO2インキュベーターの中で培養することができました。また、この網膜に対して、遺伝子銃を用いて、緑色蛍光タンパク質(GFP)を遺伝子導入することにも成功しました。
図2 モーション・ディテクターの形態学的な特徴を全てもつ視神経細胞の発見
GFPによって緑色に染まった視神経細胞(網膜神経節細胞)の中から、ウサギやネズミといった下等な哺乳類網膜で発見されているものと同様の形態学的な特徴を全てもったモーション・ディテクターと考えられる視神経細胞(方向選択性網膜神経節細胞)を見つけだしました。上図のように細胞の突起(樹状突起)が二層に重なり(断面模式図)、ハチの巣状に四方に広がっているのが形態学的特徴の一つです。Sが今回発見した細胞の細胞体。細胞体を中心に四方に樹状突起が広がっています。*は、GFPで染まった他の細胞。
この研究の社会的意義
霊長類網膜の短期培養保存法の確立
人を含む霊長類の網膜は、多くの細胞が密接に絡み合い様々な視覚情報処理を行っている複雑な神経組織です。これまでに小泉らの研究グループは、ウサギやネズミといった下等な哺乳類の網膜をまるごと取り出し培養する方法を確立していました。今回、これまでの方法を応用することで、霊長類網膜の短期培養保存法の確立に成功しました。取り出した網膜は、2-3日後でも、光にちゃんと応答することも確認しました。これまで網膜移植が実現できていない理由の一つは、網膜を取りだした後に、短期保存する方法がなかったためです。今回確立した方法は、その一つの解決策になるものと期待できます。
論文情報
Diversity of Retinal Ganglion Cells Identified by Transient GFP Transfection in Organotypic Tissue Culture of Adult Marmoset Monkey Retina
Satoru Moritoh, Yusuke Komatsu, Tetsuo Yamamori, Amane Koizumi
米国科学誌プロス・ワン(PLoS One、1月15日電子版)
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小泉 周 (コイズミ アマネ)
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小泉 周 (コイズミ アマネ)
(同上)
自然科学研究機構 基礎生物学研究所 広報室
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