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温度感受性チャネルTRPA1の活性化が、カイコの卵の休眠性を決定する

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概要

カイコ(Bombyx mori)は、一年で2世代が繰り返す二化性といわれる性質を持っており、生育に適さない冬の環境では休眠卵の形で越冬し、温度が上昇する春に孵化する。カイコの卵が休眠卵となるか非休眠卵となるかは、母親の発生段階での環境温度および日長に大きく影響されており、25度以上の環境で発生した母親が産んだ卵は日長によらず休眠卵、15度以下で発生した母親では非休眠卵となる。この温度による卵の休眠性決定分子として温度感受性イオンチャネルであるTRPA1が関わることを明らかにした。
TRPA1は非選択的陽イオンチャネルであり、哺乳類ではアリルイソチオシアネート(AITC)などの化合物で活性化し、侵害受容に関わる分子として知られるが、ハエなどの昆虫では侵害性の熱刺激の受容にも関わることが分かっている。カイコTRPA1遺伝子をクローニングしてその機能を検討したところ温度感受性のイオンチャネルであり、21.6度と表現型決定の温度条件とよく一致した活性化温度閾値を有することが明らかとなった。25度つまりTRPA1が活性化する条件で胚発生した母親が産んだ卵は休眠卵となるが、この表現型はTRPA1が活性化しない温度(15度)でTRPA1を活性化する化合物を処置した際にも再現され、休眠性の誘導にTRPA1の活性化が関わっていることが確認できた。胚発生期におけるTRPA1の発現は、温度の影響を最も受けやすいステージ20~23(孵化後3.5~5.5日)に表皮での発現量が増加しており、温度によるTRPA1の活性化を介してサナギにおける食道下神経節からの休眠ホルモンの分泌量が増加することによって、卵の休眠が誘導されると考えられる。
本研究結果により、温度によるカイコ卵の表現型決定機構が明らかとなったことにより、TRPA1がカイコの季節的多型をコントロールする有効なターゲットとして、養蚕業における効率改善への利用が期待できる。本研究は信州大学線維学部の塩見邦博博士との共同研究である。  

論文情報

Azusa Sato, Takaaki Sokabe, Makiko Kashio, Yuji Yasukochi, Makoto Tominaga, and Kunihiro Shiomi.
Embryonic thermosensitive TRPA1 determines transgenerational diapause phenotype of the silkworm, Bombyx mori.
Pro Nat Acad Sci. Early Edition.

図 温度刺激によるカイコTRPA1の活性化

20140324tominaga-hokokuA.jpg
A. カイコTRPA1を発現させたHEK293細胞を用いたホールセルパッチクランプ法で観察された熱応答電流(上)と温度変化(下)
温度低下(冷刺激)には反応しなかったが、温度の上昇に伴って大きな内向きの電流が観察された。

 

20140324tominaga-hokokuB.jpgB. 熱応答電流のアレニウスプロット
温度の上昇(横軸右から左の方向)に伴って傾きが大きく変化する点(21.6度)が、活性化温度閾値となる。温度が10度上昇したときに、反応が何倍になるかを指数化した温度計数(Q10)の値が、閾値を境に1.7から20.5と大きく上昇している。

 

20140324tominaga-hokokuC.jpgC. 胚発生期温度と休眠卵・非休眠卵表現型決定機構


 


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